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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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気持ちの相違

13/01/04 コンテスト(テーマ):第二十一回 時空モノガタリ文学賞【 学校 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1525

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「……あれ? シゲが居ない」
 放課後。居残りをして宿題を仕上げてから後ろを振り向くと、いつもバスケの漫画を読みながら待ってくれているシゲの姿が消えていた。荷物もない。
 仰ぎ見た黒板の上の時計は5時を指していた。学校の目の前の牛丼屋でアルバイトをしているシゲだが、まだシフト開始の時刻ではない。となると、シゲの居る場所なんて一つしかなかった。
 シゲの居場所に当たりをつけた僕は荷物をまとめて席を立ち、誰も居なくなった教室の電気を消して歩き出す。
 目的の場所の道半ばにある職員室に宿題を提出してから、日も落ちてすっかり暗くなった廊下を静かに歩んでいく。キンと冷えた空気が、口元を覆うマフラーから漏れる空気を白く染める。誰も居ない廊下は、なんだか異世界に迷い込んだ気持ちになるから好きだ。
 階段を上ってたどり着いた先は体育館だ。本来テスト週間である今日はどの部活も休みのはずだけど、勢いよくボールをつく音が聞こえる。
 ひょい、と顔を出して中を伺うと「オラ、どうしたあっ!」と怒号が鼓膜を刺した。
「辞めた俺にも勝てないで『勝ちたい』なんて口にすんじゃねえぞ、オラ!」
 瞬間、1 on 1をしていた声の主はディフェンスから引くようにバックジャンプをしてシュートを放つ。放たれたボールは孤を描いて、パッとゴールを貫いた。ほれぼれとするような3Pシュート。ディフェンスがうめき声を上げる。
 ハハハハハッ、っと高笑いをする声の主はシゲだった。軽やかなステップでボールを取りに行きディフェンス側だった方にパスをする。ダム、ダム、と勢いよくドリブルを始める彼のボールをあっさりとカットするシゲ。そこでゲームは終わった。どうやら本数で縛っていたらしい。
 勝負はシゲの圧勝だったようで、二人の様子にそれが顕著に表れていた。ハッ、ハッ、と息が切れながらも立って元気そうに笑うシゲ。ゼー、ハー、と苦しそうに息を吐き出し座り込む相手。
「お前さ、筋は良いぞ。ただ、体力不足とここ一番の時のミスがいけてない。どんなスポーツでもそうだが、選手に求められているのは瞬間の力よりも、試合全体の安定したパフォーマンスだ。技を磨くのも大切だけどな」
「オス」
「ま、一番大切なのは気持ちだ。気持ちがなければ努力することも満足に出来ない。今の代の連中は楽しむことを重視しているが、勝ちたいというお前の気持ちは貴重だ。今の代が引退すれば次の代はお前だ。一つでも試合を勝ち抜きたいなら今のうちからパフォーマンスを磨いておけ」
「オス、ありがとうございました!!」
 立ち上がりいつまでも頭を下げている相手に向かって、ひらひらと片手を振って別れを告げ、コートの外に置いておいたブレザーを拾うシゲ。今気付いたけど、シゲの恰好は足元のバッシュ以外はそのまま制服だった。
 その白い湯気を上げる着崩れたワイシャツは、僕が着ているものよりも遥かに格好よく見える。
「お疲れ、先輩」
 こちらに向かって歩いてくるシゲに向かって声をかける。
「……なんだ、見てたのか」
 シゲはバツが悪そうにぎろりとこちらを睨んだ。僕はそれにたじろぐことなく続ける。
「まあね。それにしても『気持ち』か。痛いもんだね、僕たちにとっては」
「……良いんだよ。気持ちの相違なんか、目標の相違なんか誰にだってあるもんだ。そんな昔の話はもう忘れた。お前だってそうだろ?」
「そうだね。僕は負け組で、シゲは勝ち組だったけど」
「あほか。俺とお前は一緒だろ。お前は実力でついていけなかった。俺は皆を説得できるほどの気持ちがなかった。技術なんかどうでもいいんだ。気持ちが足りなかったことが問題なんだろ。俺ら負け組にとってはよ」
「……ありがとう」
「礼なんかいらねえ。宿題終わったんだろ? 帰ろうぜ。俺はもうバイトの時間だ」
「そうだね、僕もこれからバイトだ」
 先を歩きながら「まじか、ルイさんに会えるとかやっぱり恨めしいわ」と憎まれ口をたたくシゲ。僕は笑って応えながら、体育館をちらりと振り返る。
 天井を眺める彼の姿が見えた。その顔には汗が浮かんでいる。ゆっくりと、右手を天に向かって伸ばす。届かない何かを求めるように、その手をぎゅっと握りしめ、力強く頷いた。
 僕が見たのはそこまで。すぐにドリブルの音が再開する。その力強さとスピードは彼の胸の早鐘のようで。こちらまでわくわく、ドキドキしてくる。
 そうだね、これが気持ちの力だね。純粋な気持ちは相手に伝わるんだ。もうバスケはしないといっていたシゲにこうやって指導をさせるだけの影響力があるんだ。
「あ、さっきのシゲ、かっこよかったよ」
「は、冗談言うなよ、気持ち悪い」
 ――その気持ちは諦めてしまった僕たちにはない、強力な武器だ。
 頑張ってくれ、僕たちの分までさ。
 そんな勝手なことを強く思った冬のある日。


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