1. トップページ
  2. 浮遊する魂

みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

浮遊する魂

18/05/28 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 みや 閲覧数:90

この作品を評価する

肝臓の末期癌で入院している七十五歳の私の身体の状態は一週間程前から確実に悪化していて、心電図モニターやら酸素吸入やらがジャラジャラと身体に取り付けられていた。以前からお腹の廃液ドレーンが二本と大きな点滴の管を付けていたので全部で五本、まるで管人間だ、と私は私を俯瞰で眺めながら妙に可笑しくなった。

自分を自分で俯瞰で眺めるなど実際には不可能な事なのだが、今の私にはそれが出来ていた。
状態が悪化してから身体の倦怠感、呼吸の困難感、身の置き所の無い苦痛が私に容赦なく襲ってきて私は意識も朦朧としていた。もうこのまま死んでしまうのだろう…と感じていると突然すっ、と何もかもの辛い症状から少し前に嘘の様に解放された。ああ、ついに私は死んでしまったのか、と感じていると、何故かベッドには倦怠感や苦痛と闘っている私がまだそこに居た。

どういう事か最初は訳が分からなかったが、どうやら私の魂が私の身体から抜け出たのだと理解した。
幽体離脱…と言う以前テレビで見た現象の様だった。身体から抜け出た私の魂は空中にフワフワと浮遊していて、倦怠感や苦痛を全く感じない。なんて素晴らしい!このまま何処へだって飛んで行けそうな程に魂は軽い(魂なのだから軽くて当然か…)
けれど、何処かへ行こうとするとそれは不可能だった。私の魂は私の身体が横たわっているベッドの側でただ浮遊しているだけだった。
何処かへ…私は子供の頃に育った故郷に行きたかった。仲の良い従兄弟と駆け回って遊んだ山へ、魚を釣って遊んだ川へ、レンゲを摘んで遊んだ花畑へー

「苦しい時は子供の頃を思い出すとえぇ」
闘病生活を送る私に従兄弟が言ってくれた事があった。
「子供の頃を思い出すと楽しくなるじゃろ?だから苦しい時や辛い時は、子供の頃を思い出すとえぇ」
もう一度行きたかった、山へ、川へ、花畑へ、故郷へー
けれど私の魂は病室の中でフワフワと浮遊している事しか出来ないでいた。そして目の前には苦痛に歪んだ顔をした私の身体がベッドに横たわっている。

見れば見る程私は酷い容姿をしている。顔は痩せ細りまるで骸骨の様だし、肝臓癌だから黄疸症状のせいで肌の色は真っ黄色だった。目は半開きで焦点が合っていなく、白目も黄疸症状のせいで真っ黄色だ。我ながら気味が悪くて目を背けたくなる。
腕はブルブルと痙攣の様に小刻みに震えていて、側で寄り添っている一人娘が懸命に腕をさすってくれていた。いつもなら、大丈夫だから、と励ましてくれるのだがその言葉はもう娘の口からは出なかった。

娘は休みの日は勿論のこと、仕事帰りにも毎日病院に私の様子を見に来てくれていた。そして一緒に一時間程たわいないお喋りをするのが日課だった。仕事帰りに毎日来るのは大変だったと思うけれど、お母さんは淋しがりやだから、と娘は笑っていた。
娘の横で私に寄り添ってくれている二十歳の孫娘はただ泣いていた。大学やバイトで忙しいのに、暇を見つけては私に会いに来てくれた。私は口煩い婆さんだから、てっきり孫娘に嫌われていると思っていたのに、お婆ちゃんはお喋りが大好きだから、と大学やバイトの楽しい話を聞かせてくれていた。

急に心電図モニターの音が騒がしくなって来た。私の身体は更に苦しそうにしている。呼吸も更に荒くなってきていて、顎がガクガクと震えている。私の身体は限界を迎えていた。先生や看護師さん達が私の周りをザワザワと取り囲んでいる。更に顎がガクガクと震えて私の身体は唸り声を上げている。

「お母さん、苦しいね、辛いね…」
娘が辛そうに呟いた。そうじゃない、最後に伝えたくて…私の魂もだんだん消えそうになっている。どうやら本当にこれで終わりの様だ。私の身体は最後の力を振り絞って声を出したが、それは言葉にならなかった。
「午後八時二分、ご臨終です」

娘と孫娘はわっと泣き出した。私の魂ももう殆ど消えかけている。ありがとう、ありがとう、最後に伝えられなかったけれどー


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン