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蒼樹里緒さん

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性別 女性
将来の夢 趣味と実益を兼ねた創作活動をしながら、気ままに生活すること。
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キラワレモノと破壊神

18/05/28 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:178

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 割れ物注意、なんて注意書きは、俺に合いすぎている。むしろ、割れ物どころか『壊れ物』、さらに言えば『キラワレモノ』だが。
 向けられた銃口を軽く握っただけで、銃は粉微塵になった。
 自分の手元と俺の無表情を、男は唖然と見比べる。
 その間、俺の横を他人が素早く駆け抜けた。
「隙ありぃっ!」
「ぐほあぁッ!」
 自分より小柄な女の体当たりを、男はまともにくらった。派手に吹っ飛ばされ、路地裏で気絶する。
 若い女は、にこやかに礼を言ってきた。
「危ないところを助けていただいて、ありがとうございますっ」
「自力で戦えたなら、余計なことしちまったな」
「とんでもないです! あなたこそわたしの救世主、いえ――破壊神さまです!」
「はぁ?」
 誰が破壊神だ。
「銃をこんなに細かくバラせる人なんて、初めて見ました。弾まで影も形もないですし、すごいです!」
「怖くないのか」
「え、どうしてですか」
 きょとんと訊き返されると、逆にこっちが面食らう。
「俺の手で触った物は、自然に壊れちまう。大抵の奴は気味悪がるんだが」
「ステキな力じゃないですかぁ」
 憧れるような声音で、女は即答する。
「わたしなんて、拳で壁とか扉とかに穴を開けたことがあるくらいで、友達から『破壊神』ってあだ名を付けられちゃったんですよ。ひどくないですか?」
「いや、それはその友達の評価も間違ってないだろう」
「えー! 今みたいに夜道で強盗にも襲われる、か弱い乙女なのに!」
「大の男を体当たり一撃で倒せる奴は、か弱くはないな」
「でも! あなたの素晴らしい力に比べたら、足元にも及びませんッ」
 謙遜の言葉をきっぱり言い切ると、彼女はなぜか地べたに座り込んだ。神に祈りでも捧げるかのように。

「というわけで、破壊神の称号をお譲りします。どうか、これからもわたしをお守りください!」
「要らんッ」

 何が『というわけで』だ。
 付き合っていられなくて早足で歩き出すと、女は懲りずに付いてくる。
 寂れた街中を進みながら、俺はふと過去を思い出した。

  ◆
 
 俺は、物に嫌われているのかもしれない――そう自覚したのは、入って間もない孤児院で遊んでいた時のことだ。
 工作をしようと、子ども何人かで机を囲んでいた。
 俺は色画用紙を切ろうと、鋏を握ったが。
 バキッ。
 変な音がして、鉄製の取っ手が壊れた。刃の部分も、机に落ちる。
 周りの連中は、呆然としていた。
 俺だって、わけがわからなかった。大して力みもしなかったのに。
「……き、きっと古くなってたのね。べつのを使おうか」
 先生が、もう一本手渡してくれる。俺は普通に受け取ったが、また取っ手が砕けた。
 先生の顔が青ざめ、子どもたちの目つきも変わった。化け物にでも怯えるかのように。
 玩具の積み木も、庭のブランコの鎖も、つかめば脆く砕け散った。
 自分と力の正体は、未だに見つからない。

  ◆

 走っても走っても、女はしぶとく追ってきた。俺も足には自信があるのに、相手を突き放せない。少しでも気を抜けば、あっさり隣に並ばれそうだ。
「待ってください、破壊神さまーっ!」
「呼ぶなッ! いつまで付いてくる気だ!」
「ずっとです! あなたにお供したいんですっ!」
 息も切らさず、彼女は真剣に断言した。
 埒が明かない。
 俺は、観念して立ち止まる。
「……あんた、護衛でも雇う気か」
「いえ。でも、誰かと一緒のほうが楽しいでしょ」
 女の眼差しが、不意に切なげになった。
「わたしの怪力は、大人からも怖がられてました。でも、この力が誰かの役に立つんじゃないかって、いろんなところで運び屋とかやって稼ぐようになったんです。それに――怪力を持ったわけも、知りたいですし」
 俺の心が、揺らいだ。
 信念や目的を持つ彼女は、居場所をなくして適当に放浪している俺とは、違う。それでも、自分の力の秘密が知りたいと願うのは、同じだ。
 俺は、苦笑まじりに訊く。
「いいのか? かなりの『キラワレモノ』だぞ、俺は」
「わたしも似たようなものですよ。あなたは命の恩人ですし、優しい御方だって感じましたから」
「……そうか。俺も、この力のことを知りたいとは思ってる。行くか、一緒に」
「はいっ!」
 満面の笑みで肯く女に、俺も数年ぶりくらいに微笑んだ。
 物や人に嫌われても、この真正直な彼女のことだけは、好きになれそうな気がした。
 小さな右手が、すっと差し出される。

「これからよろしくお願いしますね、破壊神さま!」
「その呼び方は今すぐやめてもらおうかッ」

 キラワレモノと破壊神。きっと、『物好き』同士が出会ってこうなった。


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