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本宮晃樹さん

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超伝導棺桶、時代を切り拓く

18/05/26 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:111

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「きみみたいな狂人が得意げに面会を求めてくる」多国籍企業〈オデッセイ〉の渉外担当は固く目をつむった。こめかみを揉みながら、「いつかそんな日がくるんじゃないかってずっとビビってた」
「すると、なんですか」と対面する年若い男。彼はあくまで陽気だった。「ぼくがあなたの悪夢を実現した第一号ってわけですね?」
「その通りだ。わかったらとっとと地獄へ失せろ」
「あなたに会うまで苦労したんですよ。倦まずたゆまず電話とメールで徹底的にアポ取りをやりましたからね」
「知ってる。おかげさまで秘書が一人辞めたよ、有能だったんだがな」
 二人のあいだに火花が散った。やがて渉外担当が折れた。「〈リニア便〉に乗りたいそうだな、坊主。なぜだ」
「宇宙にいってみたい。それだけです」
「だと思った。悪いがあれは貨物を打ち出すものであって人間を――」
「仕様書なら暗記してます」懐から端末を取り出し、くるりと回して画面を見せた。
 渉外担当はいまいましげにうなった。「なんだねこの図面は」
「人間が乗り込むための改造案ですよ。独学で学んだんです」
「根負けだ。許可するかどうかはともかく、こいつをうちの技術部に見せてみる。それでいいな」

     *     *     *

〈リニア便〉で広がる宇宙開発!
 われわれ〈オデッセイ〉は一丸となって宇宙開発に取り組んできました。ところがロケットの打ち上げはペイロードの割にコストがかかりすぎるという難点があります。これを克服しない限り、これ以上の進展は不可能だったでしょう。物流コストを劇的に改善する必要があったのです。
 われわれは日本と提携し、超伝導磁気浮上リニア軌道をジャクソンヴィル港からシエラネバタ山脈のホイットニー山まで敷設しました。未曽有の大工事でした。〈リニア便〉はこの長大なガイドウェイを超伝導磁石搭載のカプセル型ユニット(→〈コクーン〉)に包んで打ち出す、いわゆるマス・ドライバーとなります。
 この超弩級プロジェクトによって貨物の固定さえ適切ならば、生卵ですら宇宙へ持ち出せる時代が到来しました。運賃コスト780%カットを達成し、ますます脂に乗った感のある当事業。いまや宇宙は目と鼻の先にあるのです!

〈コクーン〉諸元
加速距離 約4,000キロメートル
最終到達速度 秒速14キロメートル
冷却媒体 液体ヘリウム
維持磁力 約60,000ガウス

     *     *     *

「お前は狂ってる」渉外担当は〈コクーン改良型〉――通称・超伝導棺桶――に乗り込んで窮屈そうに縮こまっている若者を小突いた。「マッハ42だぞ。遺言状は残してきたんだろうな」
「ええ。全財産あなたにそっくり委譲するってやつをね」
 彼は目を丸くした。「なんで俺なんだ?」
「あなたはキャリアを台なしにするリスクを負ってまでぼくの頼みを聞いてくれた」
「宇宙好きは全力で応援する。たまたまそれが俺のポリシーだっただけさ」背中を思い切りどやしつけ、ハッチを閉めた。「生きて戻ってこいよ」
 超伝導棺桶は動き出した。最初はのんびり時速80マイル、快適な旅路だった。ポイントを通過するたびに若者は息苦しさを覚え始める。500マイル、1,000マイル! まだ音速を超えた程度にすぎない。
 考えが甘かった。彼は体内の臓器が軒並み圧潰しかけているのが自覚できた。骨がきしみ、腹の下に鋭い痛みが走る。肋骨が折れたのだろう。
「いま中間地点、マッハ25。気分はどうだ?」
「最高ですよ」彼は確信する。『ぼくは死ぬだろう』
「いつでも中止できるのを忘れるなよ」
 青年は何度も失神し、その都度猛烈な痛みで意識を取り戻した。死んだほうがましだった。
「がんばれ。もうすぐホイットニー山だぞ――いま斜面を登ってる」
 振動が激しい。
「射出!」胃がでんぐり返った。「マッハ42、脱出速度」
 呼気とともに血を吐いた。
「高度三万フィート。おい、生きてるか?」答えられなかった。「十万フィート。景色はどうだ?」
 目を瞠るような紫色だった。
「じきに地球低軌道に乗る。おい坊主、返事をしろ!」
 不意に加速が止まった。
「聞いてるか。高度160マイルだ。周回軌道に乗った。成功したんだ」哀願するような調子で、「頼む、返事をしてくれ」
「生きて、ますよ」
 そして彼は見た。大気というフィルターのないぎらついた星空を、五十億年ものあいだ燃え続けている太陽を、煌々と輝く月を、そして――漆黒の宇宙に青く浮かび上がった母なる星を!
「無事なのか。生きてるんだな?」興奮を抑えられないようす。「なにが見える?」
「いますぐ遺言状を書いてください。この光景は命を引き換えにしてでも見る価値があります」
 しばしの間。「書き終わった。ちょうど予備の棺桶がある。そいつをいまから打ち出すぞ」


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