加藤 小判さん

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浮遊

18/05/26 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 加藤 小判 閲覧数:140

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 ”5月24日 木曜日”

 僕は、多重人格者だ。
 正確に言うと、僕は多重人格者なのかもしれない。それ以外はどこにでもいる高校3年生。部活には入っていないが、3年生ということもあり受験勉強に勤しんでいる。友達はいない。だが、僕が通う高校は県内きっての進学校ということもあり、友達を作らない人は多くはないが一定数いる。おかげで僕が教室内で特別浮くということは少ない。
 そんな僕の習慣は、朝起きたらスマホを開き、日付を確認することだ。この行為によって”記憶のあな”があいていないかを確かめる。”記憶のあな”の存在に気づいたのは中学生のときだった。明らかに僕の体感していないなにかが僕の身に起こっていた。
 僕は自身の身に起きているありえない現象にひどく恐怖した。自然に、自分の周りの人とも距離をとった。周りは僕の知らない”僕”を知っているのか。僕が抱えている問題を知ったら僕をどう思うだろうか。怖かった。とてつもなく怖かった。
 周りの人も僕から離れていった。それでよかったし、追いかける必要もなかった。家族とは元々あまり話さなかったから、家庭への影響は少なかった。僕の両親は、僕が幼い頃に離婚した。僕は母親に引き取られた。それからは母親との二人暮らしだ。母親と喋るのは一週間に一回もなかった。そのことについて僕は問題視していなかったし、母親も同様らしかった。
 中学校3年生の時、家庭訪問があった。その時の担任は、僕と母親の関係を知って驚いたらしい。同時に僕に向けて、同情の念を向けてきた。それから、担任は僕に気を遣うようになった。僕によく話しかけるし、クラスメイトにも僕と仲良くするように促していた。僕はそれが心底嫌だった。そして、”記憶のあな”があいているある日以降、担任が僕に気を遣うことはなくなった。
  
 僕は誰だ?


 ”5月26日 土曜日”

 嫌な目覚めだ。何度体験しても気味が悪い。憂鬱な気分で僕の週末は始まった。
 週末、僕はほとんど家から出ない。部屋から出るのだって食事か入浴の時ぐらいだ。部屋に篭っている間は勉強か、CPU相手に将棋をしている。前はオンラインで対人対戦をしていたが、僕は考えている時にぼーっとしてしまうことが多く、一手を指すのに時間がかかってしまうため相手側に通信を切られるのがほとんどだった。相手に通信を切られると僕はどこか寂しい気持ちになった。

 僕は孤独だ。

 ふと考える。僕の中にいる”僕”は孤独なのだろうか。その疑問の答えがわかるわけないことを察し、僕は椅子に座り、数学の参考書を開いた。
 数学は好きだ。数学の問題を解いている時は余計な事を考えずにすむ。そして、数学には必ず答えがある。その答えに自力で行き着くことが出来なくても解答をみれば、なにが起こってるかを理解でき、納得することができる。

 一通り問題を解き終え、CPUとの将棋を始めようと、パソコンの電源をつけようとしたときに気づいた。机の上に、身に覚えのない黒鉛の跡がついてることに。それが文字だと認識できたとき、全身から嫌な汗が噴き出し、頭がくらくらした。

 ”ボクはだれだ?”


 ”5月25日 金曜日”

 ボクは誰だ?
 意識がどこかから浮いてくる。ボクはこうしてこの世界に現れる。おそらく、ボクは普段、この世界に存在していない。そして、おそらく、ボクがこの世界に存在している間、この世界に存在しているはずの”本物のボク”はこの世界に存在していない。
 気味が悪い。ボクの存在を、”本物のボク”はそう思っているだろうと思った。
 ボクは罰印のついたカレンダーを見る。今日は金曜日、学校に行く日だ。
 学校の場所は直感的にわかる。そして、何故か”学校”という知らないはずの概念も知っている。習っていないはずの文字だって読める。おそらく、ボクは”本物のボク”の潜在的なものを受け継いでいるのだろうと考える。
 3年前、ボクがこの世界に現れたとき、ボクは今のボクと同じように学校に行った。そして、驚く程、静かに”本物のボク”の学校生活を過ごした。その行動が一番”本物のボク”が望むことだろうと考えたからだ。ボクが学校にいる間、誰もボクに喋りかけてこなかった。その時ボクは思った、なんて”本物のボク”は孤独なんだろうと。”孤独”という概念が妙に引っ掛かった。
 しかし、ボクが学校から帰ろうとした時、一人の女教師が声をかけてきた。ボクを哀れむような顔をしていた。ボクはその女教師に凄まじい嫌悪感を覚えた。そして、彼女にこう言い放った。

 「”僕”はあなたのこと、嫌いですよ」

 得たいの知れないボクの存在が”僕”をひどく悩ませている。ボクは消えてしまいたい。しかし、それができない。なぜだろう。訳がわからなくなって、ボクは机の上に鉛筆でこう書き殴る

 ”ボクは誰だ”


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