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ちやさん

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浮遊する物体

18/05/26 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 ちや 閲覧数:129

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 しばらく、目の前をゆらゆらと振り子のように揺れていた白い物体を眺めていた。
揺れは次第に速度を落としていき、いつしか静止する。
そして若葉を通りすぎてきたからっとした爽やかな風が抜けていくと、再びそれは舞い始める。右へ左へ、時にはこちら側にあちら側にと言った風に。

 しばらく眺めていると、自然と首が曲がるし、目が疲れてきて瞬きを繰り返す。
それでも、揺れるそれは見ていて飽きないし、見つめていたい魅力にあふれていた。

 ふわふわの白い毛皮のようなものを纏い、小さいながら健気に体を揺らしているし、細くか細い一本の糸で辛うじて木にぶら下がっているのがなんとも興をそそるのだ。もしかすると、瞬きをした瞬間、その一時で糸がぷつんと切れてそれは地上に落ちてしまうかもしれない。そんな風に思うと、目を離すことができない。いつかは切れて落ちるのだろうか、はたまた大きく揺れてぶら下がっている柿の木に戻って安堵するのだろうか。

 あまりにじいっと見つめていたものだから、身体のあちこちが固まってしまったようにギシギシと悲鳴を上げ始めていた。好奇心と体の疲労が互いにせめぎ合って身を震わせる。

 そう思っていたら、白き物体がなぜかそのせめぎ合いを煽るかのように楽しそうにくるんと一回転した。その今までとは違った動きに反射的に背筋が伸びた。少しだけ前のめりになって、より近くで見ようと試みると、白き物体はそれを感じ取ったのか、逃げるように糸を揺らす。
 ほぉと唸る。なるほど、これにはしっかりと自我があるのだ。こんなに小さき生き物の癖に、だ。

 他の木々には若葉がぎっしりと茂っているのに、この白い生き物は大食漢らしくぶら下がっている柿の木には今や数枚の葉か残されていない。まったく何も考えずに生きる為にただ食するだけの物体なのだと思っていた。しかし、どうだ。この生き物は私を避けた。怖いのか、そんな感情があるのか。
 
 あまりに興味深いので心が惹かれるままに眺めていたが、さすがに疲れてきた。
 誘って来たのはそちらの方だし、これはあまりに小さいけれど。
小さな同情心を持ちながら、首を伸ばした刹那それをパクリと口に含んだ。それは悲鳴を上げるようなことも無く、もちろん抵抗して毛を逆立てる暇もなく、一瞬にして喉元を通り過ぎて身体へと取り込まれていく、

 やれやれと凝り固まった身体を伸ばすように羽を精一杯伸ばして、二回ほど羽ばたかせる。
そして、止まっていたブロック塀から飛び立った。紅色に染まった空へと飛翔し、カァと一声鳴いて飛んでいく。

 戻る前にどこかで腹を満たさないと。
毛虫一匹口にしたところで生きていけるわけでもないし。
けれど、好奇心は随分満たされた。

 夕日に黒く艶やかな羽を広げて旋回していく。


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