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虹子さん

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浮けない私、恋恋恋したーーーい

18/05/21 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 虹子 閲覧数:90

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体育の時間、校庭のトラックまわりを走っていると、急につんのめってこけた。
密かな笑い声と突っ伏した私をひらりと超えていくたくさんの浮いた足たち。
「おーい、藤原。いつまでそこに寝てるんだ。早く立て」
鬼教師の声にびくっとして何とか立ちあがろうとすると妙な重力を感じた。両手をついて足をふんばると自分の足先が地面に少しめりこんでいるのがみえた。

「てかさぁ、あんたもう重症だね」
そう言って笑うのは最近彼氏ができた真希。体をふわふわさせて、ピンクの弁当箱をピンクのお箸でつついて幸せオーラ全開なランチタイムかよ。ついこの間まで私と一緒に「浮けない」ことを悩んでいたのにもう上から目線。
 真希が笑う口元にもピンクのリップ。
「分かってるし」
 いじける私にまだ真希は食い下がる。
「里美。あんたほんとにやばいよ、ついに、めりこみだしたんでしょ」
「う……ん」
「ちょっとでも気になる人、誰かいないの。このままだとあんた地面に埋まっちゃうよ」

 まさかマイナスがあるなんて知らなかった。浮くどころか沈むなんて。
恋をしたら浮く、恋をしていなかったら浮かない、ただそれだけだと思っていた。思春期の時にだけ起こる現象。早い子は小学生の頃に浮きだしていたけど、高校生にもなると、もうみんな浮きまくりで、もともと背の低い私が人より十センチほどさらに低くなって、まぁ、まわりが勝手に高くなっただけなんだけど、とにかくむなしい。私も早く浮きたい。早くしないと二十歳を超えてしまう。浮いた経験がないまま大人になるなんて嫌だ。てか、今とりあえずでも普通に地上にもどしてくれ。

「藤原さん」
 にごった眼鏡が前にあらわれた。声をかけてきたのは、目をそらしたくなるくらいにモサイ、学級委員のモサイ君。
「ちょっといい?」
「え」
「君に話があるんだ」
トイレからでたところで、たまたままわりに誰もいなかったことにほっとした。
「わかった。屋上でいい?」
モサイ君の返事を待たずに私は早歩きで屋上にむかった。モサイ君と二人きりで話してるなんて誰にもみられたくない。

屋上にでるとびっくりするくらい青い空が大きかった。吸いこまれそうな感覚におそわれつつ、やっぱり足はずぅんと重たかった。
「君、これ本気?」
いつの間に追いついていたのか、唐突にきりだしたモサイ君は手にピンクの紙をひらひらさせていた。なんだ? モサイ君の手から紙を取って見てみる。
「私、藤原里美はあなたに恋をしました? 私と付き合ってくださいーっ? なんなのこれっ」
「僕がきいてるんだけど」
「私じゃない、私知らないっ」
変な汗が全身からにじみでた。なんで私がこんなモサイ男子に告るんだよぉ。誰がこんないたずら。まさか真希?字が若干似てるような……。にしても、モサイ君、なに真に受けてるんだよー。
あぁぁぁっとうなだれると地にぴったりとついたモサイ君の足が目に入った。
「昨日、靴箱に入ってたんだ。君じゃないんだね」
「あったり前でしょ」
 顔をぐんとあげモサイ君に言って、思わず口に手を当てた。
「よかった」
「へ」
「いや、君、かなり沈みだしてるし、それに僕と君は一度も話したことがないのに恋なんておかしいなとちょっと心配になったんだ。そもそも恋はある程度お互いのことを知ったうえで発展した先にあるもので……」
 顔が熱い。
「し、心配だなんて大きなお世話よ。あ、あんただって浮けてないじゃない」
「そうだよ、でも僕は浮きたいなんて思ったこと一度もないよ。恋は焦って無理にするものじゃないでしょ」
腹立つー、なんで私がモサイ君なんかに恋語られてるんだよ。
「あんたなんかに言われなくっても分かってるわよっ」
 丸めたピンクの紙をモサイ君に投げつけて走り去る……のつもりが、またつんのめった。
 こけ方、スローモーション?! いっぱい気持ちがあふれ出した。
なんでなんでなんで。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
沈んでる沈んでる。
浮きたい浮きたい浮きたい。
恋恋恋した――――い。

!!!

力強い手に腕をつかまれた。カシャーン、何かが割れる音。次の瞬間、私はあたたかい中に抱かれていた。学ランの感触。顔をあげると経験したことのない近さに男の子の顔があった。一瞬目が合う。
「やっ、やだっ」
慌てて離れた。
「あ、ごめん」
眼鏡がはずれたモサイ君の、少し照れた赤い顔。ま、まじかーっ!

気づくと私の足はアトムのように足から炎を出して、浮く、どころか飛び上がっていた。瞬く間に眼下で小さくなっていく屋上。その真ん中に立って私を見上げるモサイ君の影がぽっかり丸くなっているのがみえた。浮いている者の影。
とてつもない風圧に逆らい急上昇しながら私はガッツポーズをしていた。



 






 



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