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はやかわさん

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星の上の女

18/05/17 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 はやかわ 閲覧数:76

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 俺はただ一人で夢想していた。あらゆることを考えた。この世界がどんな法則に支配されているのかとか、人間はどういった法則によって動いているのかとか、答えは出ない。全ては謎めいている。そして俺はきっとこうやって誰かより優れた存在でいたいと切望しているのだ。
 いったい他人がどうやって生きているのか俺は知らない。ただ俺は特殊な性格のせいか物事の詳細まで気にする。
 テーブルの上に置かれているカップラーメンを口にする。今日の夜ご飯だった。世界は真っ暗になって太陽はすっかり沈んだ。街灯が辺りを照らす。
 俺はそんな世界が嫌いだった。どうしてかわからないが、俺のことを責めているような気がする。どうして俺がこんな惨めな境遇にならなきゃならないのか。自分自身の社会的地位や恋人の有無などいろいろなことが頭の中をめぐる。馬鹿らしいと思いながらもどうにかこの世界から自身の存在意義を消そうとしているのだ。俺には人生を楽しむ余裕もない。
 夜ベッドの中で眠りにつく。本当は隣に可愛らしい女性がいたらいいなと思う。だけれど、どうしても世界は思い通りにならないのだ。俺の気分は鬱屈していくばかりだった。そしてこんな生活を続けていくのなら、もういっそのこと終わりにしてもいいのではないかという考えに至った。
 だから俺はその日の夜に部屋のベランダから飛び降りた。びっくりすることに途中まで落下したら急に体が浮遊していく。そして俺はぐんぐん上まで引き吊り上げられる。
 重力が逆になったのだと思った。そしてこんな状況でもそんなことを冷静になって考えている自分を馬鹿らしく思った。別に人からどう思われたって構わないのに、俺はそんなことにこんな死の直前ですら過敏だ。
 一人の人間である自分自身はただの動物にしか過ぎない。優れた異性と繁殖することが目的なら、少し違うと思う。俺は別に優れた異性と繁殖したいわけではない。ただ側にいたいだけだった。そんなことすらできなかった自分の二十数年間を空中浮遊しながら考え、人間は大した存在ではないと思い知った。
 そしていつの間にか俺は大気圏を突破していた。宇宙空間を俺の体が光のように進んでいく。そして地球の青さが見えた。やはり地球は宇宙から見えると青く見えた。
 それで地球からどこかの星まで行った時に、ようやく俺は浮遊から解放されて、星に降り立った。
 万有引力はあるのだなとその時思った。
 その星には一人の自分と同い年くらいの女性がいた。
「名前はなんて言うの?」と俺は聞いた。
「さぁ?」
 その女性はそう言って俺のことをあざけるように笑った。
「俺のことを好きになってほしい」
 恥ずかしさをこらえながら俺はそう言った。
 もはや俺には恥じらいもなかった。どうせ死んだ身なのだ。
「好きだよ」
 俺の予想外の返事だった。
「どうして?」
「嘘よ」
 彼女は俺のことを笑った。そして俺の無様な姿を見ながら星の砂をすくって俺に見せた。
「君はこの砂の中の一粒。もし生きてる意味が見いだせず死んでしまったなら悲しいけれど、私はチャンスを与えるわ」
「それはつまり?」
「私が君を浮遊させてここまで連れてきたの」
「なんだか意外だね。君は一体誰なのさ?」
「さぁ? 存在なんか考えたことないわ。でもあなたのことを地上で見ていて、なんだか可愛そうな人がいるなと思って、こうやって星の砂をすくうように助けてあげたの」
「俺はもう一度あの世界に帰らなきゃいけないのかな?」
「そうね。君に地球で生きるための勇気をあげるわ。私は君のために雨を降らせることも地球を自転させることもできる。だから君に愛をプレゼントしてあげる」
 彼女はパチンと星の上で指を鳴らした。
 瞬間が俺の心が愛に包まれる。そして俺の目前にはこの世のものとは思えない美しい景色が広がっていく。それは無限に広がっていた。なぜか心は温かかった。
 しばらく星の上でそんな光景を眺めているうちに俺は部屋のベランダに立っていた。空に浮かぶ星は奇跡のように美しかった。そしてぽつりぽつりと雨が降り始めた。
 俺はそれが星の上にいた女の仕業だと思った。そしてたまには明るい事でも考えながら生きてみようと決意した。


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