1. トップページ
  2. まるで必要ないような

瑠璃さん

社会人一年目のまだまだひよこ。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 思い立ったら即行動。

投稿済みの作品

1

まるで必要ないような

18/05/16 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 瑠璃 閲覧数:147

この作品を評価する

カーテンの隙間から光が差す。ありきたりの毎日。そして私は、まるでこの世界に必要とされていないような悲しい錯覚に陥って、目を覚ます。目覚まし時計をちらりと見ると、時刻は午前6時30分。また、今日が始まってしまった。着替えを済ませ、朝ごはんを食べ、黙々とロボットのように身支度を整えていく。決められた毎日。この世界が私を必要としていないのと同じで、私もこの世界を必要としていない。私は、いつもそうなのだ。地に足をつけて、毎日を生きることができない。仕事をして、物を食べて、シャワーを浴びて眠るだけの毎日は私から何かを奪うには充分だった。ふわふわと、クラゲのように「今日」を浮遊している。いっそクラゲになってしまった方が有意義なのではないだろうか?彼らは毎日生きるのに必死で、しかし、そこには生きようとする輝かしい何かがある。私にはない、何かが。人でぎゅうぎゅうの通勤電車に揺られながらそんなことを考える。私だって、昔からこんな感じだったわけではない。確か、高校生の時は毎日を精一杯生きていた気がする。周りの人にぎゅっと押されてくすくす笑う女子高生を見ながらふと思う。確か、あの頃は…。

すうっと冷たい水に潜る。戯れに息の続く限り潜水してみる。水の外では友人達の笑い声が聞こえる。ぼやけたような話し声も。水に潜るのは好きだった。幼稚園の頃に始めた水泳。気づいたら高校でも水泳部に入っていた。決して強豪校だったわけではない。しかし、真面目に練習し、結果を出そうと努力する部の方針は好きだった。たった1秒でもタイムが縮まれば苦しい練習も報われた。水の中では誰にも邪魔されない。潜水から水面に浮かぶ時の浮遊感も好きだった。きらきらと輝くプールが、目標に向かってひたすら泳ぐ仲間たちが、自分が、好きだった。

駅に着いてドアが開いた瞬間に現実に引き戻される。ああ、私は、忘れていただけなのだと思う。電車から降りる人たちに追い出されるようにしながら少しだけ、目に熱さを感じる。その上少しだけ、可笑しくなる。最近あまり感傷に浸ることなどなかったのに。毎日同じ繰り返しをしているだけだったのに。私にもまだ人の気持ちが残っていたのか、なんて、自分を皮肉って笑う。時刻は8時。始業まであと30分。人でごった返した階段をホームから眺めてスマートフォンを開き、「部長」と書いてある番号を押す。
「部長、私今日は休みます。熱が出ちゃって。」それだけ告げると、返事の途中で通話を切る。ふわふわしている。しかし、いつもの感じじゃない。こんな簡単なことで私は浮かんでいけるのだ。反対方向の電車に乗る。海でも見に行こうか。それとも、水泳のスクールに申込でもしに行こうか。今日の私はロボットじゃない。今までも、ロボットなんかじゃなかった。毎日をつまらなくしていたのは私だった。自分に自分ではめていた枷をそっと外す。世界は、私を必要としていないかもしれない。しかし、そんなことは関係ない。あの頃と何も変わってなどいない。水面に浮遊していく、この瞬間が一番気持ちいいのだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン