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吉岡 幸一さん

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浮遊大会

18/05/12 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:1件 吉岡 幸一 閲覧数:79

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「いよいよ今日は浮遊大会だな。みんなで応援にいくから頑張るんだぞ」
 父に背中をたたかれて家をでたカイは勢いよく小学校へかけだした。
 この日のためにどれだけ作戦を練ったことか。雨の日も晴れの日も、リビングで寝転びながら、テレビを見ながら、ゲームをしながら、鼻をほじりながら、必死に脳内浮遊訓練を繰り返してきた。
「一番になったらスマホ買ってほしいな」
 カイがおねだりをすると、父は母の顔色を気にしながらも頷いてくれた。
「わかった。そのかわり二番じゃだめだぞ、学校で一番になったらな」
 父の言葉に母はため息をついていたが、とくに反対することもなかった。どうせ一番にはなれないだろうと思っているようだ。
 全校生徒四百八十名の頂点に立つことは容易ではない。カイは今年六年生、小学校最後の浮遊大会だ。一年から五年まで毎年参加してきたが、これまで一度たりと表彰台にのぼったことがない。最高順位は十八位、五年生の時だ。なかなかの成績だが一位にはほど遠い。
 去年の一位から八位まではすべて春に卒業した六年生だった。だから今年の浮遊大会は、カイの前には九人しかいないことになる。他の九位以下の生徒とは落下時間差はほとんどない。なんだか一位になるのが現実的に思えるではないか。
 午前十時に運動場で浮遊大会は始まる。体操服に着替えた全校生徒が運動場に集まり、校長先生、PTA会長の挨拶の後、生徒会長による選手宣誓、準備体操、そして学年ごとに定められた位置に移動して、いよいよ浮遊が開始される。
 テントの中には招待された町の名士が座り、大勢の保護者が運動場をまるく取り囲んでいる。初秋の日差しが眩しいので女の人の多くは日傘をさしている。
 カイの場所はちょうど運動場の真ん中あたりだ。浮遊し続けていれば一番目立つ場所だ。
 教頭先生のピストルの合図で大会は始まった。
 いっせいに生徒が空に向かって垂直にジャンプして浮遊する。高さは一mから三mまでさまざまだ。なかには浮遊できずにすぐに落下してしまう生徒もいる。一輪車に乗れない生徒がいるように浮遊が苦手な生徒だっているのだ。
「がんばれ、落ちるな、こらえろ」
 応援の声が運動場に響きわたる。横断幕を掲げている保護者もいれば、旗を振っている保護者もいる。卒業生もちらほらいて、就学前の子供らもアイスキャンディをかじりながら見ている。
 カイの父も拳を握りながら応援している。母はそんな父を笑いながら眺めている。
 次々に子供たちが落下していく。低学年の子らは三十分もしないうちに地面に足をついた。中学年の子らは一時間たたないうちに地面に足をつき、五六年生の高学年の一部だけが一時間を超えても浮遊し続けていた。
 当然のようにカイも残っていた。時間がたつほどに一人また一人と脱落していき、残りは九名となった。去年、カイより成績がよかった生徒ばかりが残っている。
 足先が痺れてきてかなり苦しくなってきた。
 このままでは落下してしまう、と思ったカイは練りに練った作戦にでた。残った浮遊生徒に順番に声をかけていった。
「落ちないとどうなるかわかってるよな」
 これを恐喝という。
「給食でプリンがでたらあげるから」
 これを買収という。
「かわいいな」
 これを褒め殺しという。
「頼む、落ちてくれ」
 これを泣き落としという。
「頭いいな。先生が褒めてたぞ」
 これを名誉欲のくすぐりという。
「あの漫画、今度貸してやるよ」
 これを代替行為の誘惑という。
「優勝しないと怒られるんだ」
 これを同情をさそうという。
「あの子が告白したいんだってさ」
 これを動揺させるという。
 カイの心理攻撃作戦は当たった。残っていた全員が……いや、ただ一人を除いたすべての生徒が地面に足をつけてくれた。
 ただ一人の生徒はカイが脅そうが買収しようが頭を下げようが、なにをどう言っても地面に降りようとはしなかった。
 それは去年九位だった同じクラスの女子、アヤだ。
 考えていたすべての方法を試しても効果はなかった。まさか力ずくで引きずり落とすわけにはいかない。それでは反則負けになってしまう。
 何も考えられなくなったカイは何も考えないまま言った。
「大会で優勝したらスマホを買ってもらえるんだ。そしたら電話したり、メールしたり、ゲームしたりできるんだ。友達になって一緒にやろうよ」
 そう言うとアヤはすとんと地面に足をついた。
「後でメルアド教えるね。面白いゲームとか教えてあげるから。……だって友達でしょう」
 ピストルが鳴り、教頭先生の声がスピーカーから響いた。
「今年の優勝は六年一組のカイ君に決まりました」
 一斉に拍手が鳴り、父と母が大声でバンザイと叫んでいる。
 これを瓢箪から駒という。
 カイは頭をかきながら新しい友達にそっと手を差しだした。


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このストーリーに関するコメント

18/05/13 文月めぐ

拝読いたしました。
様々な作戦を考えた主人公に思わず笑ってしまいました。
ラストが爽やかで心地よかったです。

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