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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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サヨウナラ相棒

18/05/01 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:157

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 雲ひとつない日本晴れだった。『サザンビーチちがさき』の駐車場からは、幾人ものサーファーが押し寄せる波にサーフボードで勇壮に挑んでいる姿が見えた。
 まだ早朝5時を過ぎたばかりだが、彼ら彼女らは出勤前のレクリエーションなのかもしれない。
 駐車場で待つこと40分、メルセデスマイバッハS650が空車だらけの駐車場に、えばるようにやって来て止まった。
 左ハンドルの運転席から、牧原リョウが緑の短パンに白いTシャツ姿で降り立った。このメルセデスマイバッハはベンツの最高級車だ。
 23歳の若人が乗る乗り物には、まだ早い。リョウならなお更だ。
「早く撮影して、帰ろうぜ」リョウは、欠伸をしながら言った。
 チャンネル登録者数120万人の人気YouTuber『熱血100%』が、俺らのチャンネル名。3年前にチャンネルを開設し、リョウが演者で俺は裏方。
 リョウと二人三脚でやって来て、ここまでチャンネルを大きくした。
「眠そうだな」
「うん。で、今日の撮影は何?」
「ヘリウム風船で空を飛べるかのチャレンジ企画だよ」と俺は言った。企画はすべて俺が考え、カメラ撮影もする。
「そんなの、ありきたりなネタじゃね」
「うん、まあな。でも、視聴者はきっと楽しんで観てくれるよ」
 自分の企画力には、自信があった。チャンネルをここまで大きくしたのは、リョウのカリスマ性ももちろんだが、俺が考えるネタも相まってのことだろう。
 最近のリョウは、俺の企画を駄目出しすることが多いが、方向性を変えるつもりはない。
「ところで、なんで今日の撮影はこんなに早い時間なの?」目ヤニを取りながら言う。
「日中はできないだろう、ビーチに人が多くて」
「オレ、深夜3時までBarで飲んでいたから、超眠いコンディション」
 飲酒運転かと思ったが、言葉をのみ込む。
「今日の企画は、すぐに終わるよ」
「あー、面倒くせー」
「さあ、ビーチに行こうぜ」
 俺は業務用ヘリウムガスボンベと小物を持って歩く。後ろを振り向くと、タバコを吸いながらリョウが続く。
 ビーチに着きさっそく撮影の準備をする。
「じゃあ、撮影始めるぞ」
「おう」
 リョウは、顔を両手で叩いて気合を入れる。
「撮影3秒前・2秒・1秒」手でスタートの合図を出す。
「はい、皆さんこんにちは。熱血100%のリョウです」と笑顔で言う。
 カメラが回った時の彼は、まさにカリスマ的だ。話術も顔の表情も、すべてが好感を持てる。俺には圧倒的にそれが足りない。
「今日の企画は、巨大風船で浮遊しようぜ!」自ら拍手をして鼓舞する。「いやー、ちょっとドキドキしてる。目標はオゾン層まで浮遊して真っ黒に日焼けしてくるぜ!」
 俺は三脚のカメラに映らないようにしながら、風船にヘリウムガスを注入する。萎んでいた巨大風船は、直径2メートルまで膨張した。
 膨らませた赤い巨大風船の紐をリョウに渡す。
「うわ、スゲー。1個だけでも体が浮きそうになる」風船の紐を自分の腰に巻きつける。
 もう1個の青い巨大風船にもガスを注入すると、その紐を彼の腰に巻きつけた。俺は青い風船の紐を放す。
「うわースゲー、浮いた! 浮いた!」
 リョウは赤と青の風船によって、上空10メートルまで浮遊した。彼の足首に結んでいる麻紐を、俺は両手で掴んでいる。


 タクミと飲みに行ったのは、先週の土曜日だった。
 その日の夜はとても暑苦しく、椅子に座ってるだけでも体から汗が滲み出るようなそれだった。駅前に程近い大衆酒場で飲んだのだが、その居酒屋は店内と店先で飲むことができる店。
 店先には低い木のテーブルが5脚設置されており、ビールケースの上に座布団がのっているのが椅子代わり。俺とタクミはビールケースに座りながら、ビールと料理、そして会話を楽しむ。
 だいぶ酒に酔うと、タクミはリョウの話をしだした。
「リョウの奴、最近調子に乗ってるよな」
 俺は相槌は打ったが、無言。リョウの雑言を言ったら切りがない。
「アイツ、こないだ見せたい物があるから今すぐ家に来いって俺を呼んだんだ。行ってみたら、ベンツの最高級車を買った自慢だったよ。しかも俺に、お前には一生買えないだろうなって……」
 タクミはさらに話を続ける。
「アイツ、一平のことも悪く言ってたぞ」
 リョウが俺のことを何て言ったのか気になる。「何て言ってた?」
「企画も三流、裏方も三流だから、一平を首にしようかと言ってた」
 俺は体の血が沸騰するようだった。


 リョウは上空に浮遊しながら大袈裟に「風船で人間は浮きます!」と、大声で言っていた。
「さようなら相棒」そう言って、俺は麻紐を放した。
 リョウの体は、ドンドン上に浮遊する。リョウは、叫びのような声を上げる。
「チャンネルがここまで大きくなったのは、お前一人の力だけじゃないぞ」と呟いた。


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