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鎌太郎さん

28歳になりつつ、ぬるぬる駄文を散らしている者です どうかよろしくお願いたします 別サイトでも小説を書いているので、良ければどうぞ https://mypage.syosetu.com/915062/

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浮いてる彼が羨ましい

18/05/01 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 鎌太郎 閲覧数:133

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「あいつ、ちょっと浮いているよな」

 初夏が始まろうとしている、少々蒸し暑い昼休みの教室でそう言ったのは、このクラスで1番人気の男子だった。
 いつも明るく誰とでも仲良く接しようとする彼は、女子人気が高いという訳ではなく、単純に平均値が高いというだけの話。
 それでも、彼の言葉に返事をしようという人間は多かった。

「ああ、確かにそうだよね」
「なんかいっつも1人だし……仲良くしようって気持ちないのかな?」
「顔は悪くないんだけどね〜」
「それはお前が面食いなだけだろうが」

 別に、じゃあそれでイジメちゃおうかという話ではない。会話が途切れてしまったので、なんとなく話がそういう流れになっただけの話だ。
 ――ワタシも含めた全員の視線と興味の矛先が向かっているのは、クラスの1番端に座っている男子だ。

 眼鏡をかけ、よく言えば知的に、悪く言えば冷徹に見える、自分たちと同じ年齢の少年。彼は確かに、最初から自分達とは違う存在だった。
 成績は常にトップ。だが、誰も彼がノートを取っている姿も、勉強している姿も見たことがない。いつもよく分からない本を読んでいるだけ。
 運動はそこそこ。というか、目立つほどの才能は持っていないし、かといって足手纏いになってしまうほど下手でもない。
 話はしてくれる。しかし、他人に“合わせよう”という気持ちは一切ない。迎合しない、常にマイペースというか、自分という軸がブレないのだ。

 そういう意味で、彼はもはや浮いているというレベルではなく、足元から数センチ浮遊しているのではないかと思える程だ。
 異端。
 そんな言葉は高校二年生にもなって誰もが知っているし、そんな異端を1番嫌うのが、思春期を迎えている日本人の一般的なものだ。
 もっとも、先ほども言ったように、イジメてはいない。隠しているのではなく、本当に。
 ただ、彼という存在を自分達が受け取れきれず、腫れ物のように、浮遊している謎の存在として扱っているだけの話だ。
 でも、そんな彼を、ワタシはどうしても嫌いにはなれない。
 むしろそう、これはきっと――、

「ねぇ、アンタもそう思うよね?」
「えっ――」

 衝動的に言葉が出そうになったのに、理性がそれを封じ込める。
 ワタシはこの視線が苦手だ。
 『お前も同じだろう?』という、無自覚に強要してくる視線。例え本当の意味で強制ではなかったとしても、そんな“空気”を読んでしまう。
 そして弱いワタシは――その“空気”を読んでしまう。

「あ、はは、そう、だね、」

 その言葉だけで、視線は止んだ。そうだよね〜などと、同意を貰った安心感に顔を破顔させる。
 ワタシは、弱い。どうしても、他人を気にして自分をまっすぐに表現する事は出来ない。それをして皆に嫌悪される事を想像すると、怖くて何も本当の気持ちを言えなくなる。
 自分を浮遊させず、皆と同じ位置に沈殿させ、本当の気持ちを心の奥底に沈ませる。



 だからこれは、彼に向けているこの感情は“尊敬”なのだ。
 けして“恋愛感情”ではないのだ。
 だってそれでは、彼にとっても失礼だから。
 こんな事で人を好きになってしまうのは、失礼だから。




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