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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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プランクトンになりたい

18/05/01 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:63

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 プランクトンというと、微生物をイメージしやすいが、プランクトンにそのような定義はない。大きさは関係なく、有名なものだとクラゲもプランクトンの一種だ。
 自力で動いて酸素や糖分を摂取せず、例えば海の中で流されるままになっている生物――それがプランクトン。
 大きさなど関係ないのなら、たとえ人間でも、プランクトンの資格があるのではないだろうか。流されるまま、人生のすべてを世に任せて、ふらふら浮遊していたい。
 詰まるところ、この進路希望調査への僕の回答は、
『プランクトンになりたい』
 である。



「今年はそう来たか」
 先の進路希望を読み終え、深くため息をつく。教諭はこの学校で長く進路指導に就いており、数多くの生徒の進路相談に乗ってきた。
 学力的に中途半端な高校であるため、生徒の進路は様々だ。幅広く扱えねばならない。
 そしてその「幅広く」の中には、生徒からの珍進路希望も含まれていた。わざとふざけているのなら、ただしてやれば済むので実は楽だが、真剣なケースが厄介で困る。
 奇抜なもの、夢いっぱい過ぎるもの、生徒自身は特別だと思っているが割とよくあるもの、白紙での回答……長くこの仕事をやっていれば、色々と見てきた。
 プランクトンは初めて見たが。
 こんな回答をもらった以上、呼び出して話さねばならない。三者面談でも同じことを主張するかは不明だが、その前に真意を把握して、親御さんが卒倒しない程度には修正させる必要がある。

「あの、先生からの呼び出しってことは、進路希望のことですよね?」
 男子生徒は、期限内に提出もしたし、不備もなかったはずで、呼び出される覚えはないと付け足した。
 これはガチなやつだ。厄介なやつだ。
「うん、俺も勉強不足で理解が追いつかないから、まずは話してみようや」
 職員室の自分の席から、来客用ソファのある場所へ移動する。長い戦いになりそうだった。
「俺の読解自信ないが――」
 謙遜でもバカにしているのでもない、純粋にわからない。
「いわゆる『ヒモ』になりたい?」
 聞いた直後、生徒は露骨に顔をしかめた。外れたらしい。
「先生、その表現は差別です。男女差別。『ヒモ』と呼ばれる男性は、専業主婦の一部と全く同じですから、専業主婦を蔑視しないなら、悪く言うのは筋が通りません」
 家事労働の有無に寄らず、稼ぎを異性に頼っている人のことを呼ぶのに、男性は「ヒモ」で女性は「専業主婦」とするのは、差別だと説教された。
「そういえばそうだな。じゃあお前は専業主夫になりたいということ?」
 女子生徒には、お嫁さんと書く者もいる。婚約でもしているのならまだわかるが、残念ながら現実に則したケースはお目にかかったことがない。
「いえ、それは特に考えてなかったです」
 違うらしい。では何なのか。教諭の読解はとうに限界に達しているので、生徒自身から聞き出すことに。
 曰く、能動性を失いたいとのこと。仕事や勉強が嫌といったことでもなく、それこそ趣味も要らない。自分では動きたくない。
 人間は食物連鎖の頂点と称されるが、考え方によっては違う。実際食うか食われるかの状況で人間のほうが圧倒的に不利な動植物は幾らでもいる。あくまでも棲み分けをできているだけだ。
 しかしプランクトンは垣根なしに食物連鎖の最下層。食われるだけの存在。それがいい。それが一番楽だ。悩みも恐怖もありはしない、どうせ自分ではこの人間社会で食う側にはなれないのだから――。
「なるほど、わからん」
 えらく複雑なことを話すプランクトン志望者を前に、他の言葉は見付からなかった。
「あのな、進路調査は、ざっくり言えば、進学か就職かを問うものなんだ。これだと違うだろ? 職業差別をする気はない、だから、性風俗でもギャンブル業界でも、本人が志望するなら、それだけで否定しないし、アルバイトとか、声優やアイドルとか、他だとユーチューバーや作家――これらは自営業だが大別すれば就職だ――、どんなのでも否定しないぞ」
「ならプランクトンは?」
「プランクトンは人生観みたいなものだろ。それは訊いてない」
「進路希望調査なのに?」
「進路希望調査だから」
 弱ったという表情の男子生徒。教諭のほうも弱っているが、経験の差というものがある。感覚の麻痺とも言う。
 生徒は悩んでいる。こうして悩みたくないというのが、プランクトン志望だったはずであるのに。
 と、それで教諭も、重要にして完全な解決策に辿り着いた。
「プランクトンのように流されて生きたいなら、社会に流される格好で、この進路希望も言われたように書けばいい」
「はっ!」
 双方の願いが一致した瞬間だった。

(了)


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