1. トップページ
  2. ゴミの声が聴こえる人

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

2

ゴミの声が聴こえる人

18/04/30 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:2件 そらの珊瑚 閲覧数:261

この作品を評価する

 継野さんは、ちょっと変わってる。

 毎食ゆで卵、それも茹で時間13分の固茹での卵を食べる。朝はトーストと一緒に。大学へ行く時は、ポケットにひとつしのばせて。夜は夕食のあとのデザートとして。調子よければ深夜のお酒のつまみとして。エトセトラ。
 理由は、卵は完全栄養食でおまけに安くて美味しいから、だそうだ。それは認めよう。だけど毎日じゃ飽きないのか? 普通は飽きるものだと思う。そう、味覚からして継野さんは普通じゃないのだ。

 男子の継野さんと、女子の私。世間ではそういうのをカップルと呼ぶが、私たちはそういうのとは違う。
 初雪が降ったあの日。私の家が火事で焼けてしまい、困っていたら「よかったら、しばらくうちに住む?」と声をかけてくれたのがサークルの先輩、継野さんだった。
 継野さんは古い一軒家に住んでいた。元は祖父母が住んでいたらしいが、今は他界していて、一人暮らしなんだそうだ。
「この部屋、使っていいよ」
 継野さんが案内してくれたのは六畳の北向きの部屋。百科事典や古そうな玩具やら健康器具やらブラウン管テレビやらが、壁際にところせましと雑多に積まれていた。つまりは物置部屋。が、文句は言えない。「家賃なんかいいから」という継野くんの言葉に甘えることにした。

 ひとつ屋根の下に男と女。
 夜に襲われたりしないだろうかという不安が全くなかったわけではないが、なんというか継野さんから男の気配を感じたことはゼロだった。
 たぶん継野さんには髭さえ生えてこないのじゃないだろうかと思うくらいだ。
 まあ、それはいいとして、せめてものお礼の気持ちとして、すすんで私は卵茹で係となった。

 もっと変わっているところといえば、継野さんは『ゴミの声が聴こえてしまう』体質なんだそうだ。
 捨てられた三輪車が「僕、まだ乗れるよ。連れてって」と哀しい声で言い、同じく、捨てられたぶら下がり健康器具が「俺、壊れちゃないぜ。ぶら下がってくれよ。なんなら服を吊っちゃってもオッケー」となけなしの虚勢を張って言うんだとか。
「あっ! あの部屋にあったもの、継野さんが拾ってきちゃったんですね」
「そうなんだ。なんだかゴミたちが不憫でね。きっとゴミになった自分の身が、これからどうなるのかうすうす気づいてるんだろうね。ある者は焼かれ灰になり、ある者は影も形もなくペチャンコにされる。だから最近、粗大ゴミの日は、耳にイヤフォンつけて音楽を大音量にして通るようにしてるんだ。心を鬼にしてね。家がゴミ屋敷になったら困るから」
「じゃあ、三丁目のあの有名なゴミ屋敷の前を通ったら、どうなっちゃうんですか?」
「通ったこと、あるよ」
「どうだったんですか?」
「聴こえたさ、ゴミたちの楽しそうな笑い声が、さ。あそこはゴミのユートピアさ」
 近所の人からは忌み嫌われているあのゴミ屋敷の住人は、ゴミたちにとっては救世主ということだろうか。
「ゴミ屋敷の主人は僕と同じ特殊能力を持っているんじゃないかなあ。じゃなかったら、あんなに尋常じゃない量のゴミを集める理由がないよ」
「そして音楽ケータイもイヤフォンも持ってなかった」
「おそらくね。これは憶測でしかないけど」
「ブラウン管テレビは、継野さんに何て言ったんですか?」
「確か、『百年経ったらヴィンテージになって値打ちが出まっせ』って大阪の商人みたいなこと言ってたなあ」
「人間ぽいですね」
「だね。もとは人間が作りだしたものだからかな」
 たぶん継野さんは、優しいのだ。ゴミたちはその優しさにつけこんで生き延びようとしてるのだ。百年経ったら継野さんだって生きてはいまい。今度の粗大ゴミの日に、そのテレビを捨てに行こうか。
 私だって継野さんの優しさにつけこんでこの家に住まわせてもらっている身。その権利が果たしてあるのか、ないのか。たぶん、いや絶対にそんな権利はない。

「ねえ、継野さん、実は私はゴミ人間なんです。父と母、人間によって作り出されたけれど、人間扱いなんてされてなかったから。文字通り、おまえなんかゴミだと言われた。――そして家に火をつけた。だから継野さんが拾ってくれたんですよね」
 つとめて冗談ぽく言ったのに、継野さんの顔が笑っていなかったから、それはまったく冗談に聞こえなかった。
 初雪が降ったあの日。私は心の中で誰かに向かって「助けて」と叫んだ。

 それをキャッチしてくれたのが、あなただったのですね。
 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

18/05/06 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

ゴミの声が聞こえたら、捨てたいものも捨てられなくて困ってしまいますね。
ゴミ屋敷ですが、仕事柄リアルで何軒か見たことがあります。
玄関にうず高く積まれた雑誌や箱の類、床も見えないほど散らばった新聞紙など・・・
もし地震になったら、このゴミで出口が塞がれ、もしくはゴミに埋もれて死ぬことになるのではと考えるとゾッとします。
それにものすごい悪臭がします。ゴミは溜まると生活を脅かす存在だと私は思いますね。

最後の主人公のカミングアウトは強烈な印象でした。ゴミ人間扱いされた彼女の逆襲だったんですね。

18/07/23 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。

住宅地にゴミ屋敷があったら、とんでもなく迷惑でしょうね。
住んでいる人は病気にならないのかと思ってしまいます。
最後の展開はまったく考えてはいなかったものですが、書きすすめていったらなんだかそういうことになっちゃいました。

ログイン