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入江弥彦さん

入江です。狐がすきです。コンコン。 Twitter:@ir__yahiko

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さいはてランド

18/04/30 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:4件 入江弥彦 閲覧数:434

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 本日もご乗車ありがとうございます。
 私の認識が間違っていなければ、きっとこの言葉は人間に向けて発するはずだったものなのだろう。ということは、今は私一人に向けたものだということになる。
「こんなにたくさん乗ってるのに、私だけになんて」
 ちょっと贅沢かも。と続く言葉に反応する人は誰もいなかった。
「このバスは、さいはてランド行きです」
 感じのいい女性の声が、一つしかない行先を告げる。
 がたがたと小刻みに揺れていたバスは、徐々にスピードを緩めてぴたりと停止した。機械による正確な運転に寂しさを覚える間もなく、扉が開いて複数の子供が乗り込んでくる。
 ああ、噂通りだ。この中に、あの子が。
「あれ? 人が乗ってる!」
 その中の誰よりも体が大きい少年は、私を見ると新しいおもちゃを見つけたように声をあげた。おそらく、彼がこの中のリーダーなのだろう。後ろに控えていた子供たちに何か小声で指示を出すと私のほうに歩み寄ってくる。
「お姉さん、このバスは人が乗るものじゃないよ」
「知ってる」
 少年は私の返事を聞くと少し困ったように眉を寄せた。
 子供たちは私たちに目もくれず手際よくガラクタを降ろしていく。
「俺は廃棄物処理児童のタイト。お姉さんは?」
「アンっていうの」
「わかった。とりあえず、迷子ではないんだよね」
「うん、自分の意志でここに」
「あー、さいはてランドにようこそ!」
 それから、と何か考えるようにしたタイトは、日に焼けた肌によく映える白い歯を見せて言葉を続けた。
「変わってるね!」


 どうやら私は変わりものらしい。
 今にも壊れそうなスニーカーでガラクタが重なった山を登る。くだりは危ないからと繋いでくれたタイトの手は私より一回り小さかった。
 しばらく気を付けて歩いていると、まっすぐ舗装された道に出る。少し、色とりどりなこの道も、もしかするとゴミからできているのかもしれない。
 道のわきには小さな家がいくつもたっていて、その壁には見たことのある標識や缶ジュースの名前が見えた。
 そういえば、あのジュースはケイジくんが好きだった。缶を潰して捨てないから、その度に少し揉めたっけ。細かい女は嫌いだと言った彼は、あの時から他にいい人がいたのかもしれない。
「アンはいくつ?」
「三十二歳」
 ぼんやりとしている私を気遣ってか、タイトが明るい声で質問を投げかけてくる。別に、子供相手に隠す必要もないと少し気にし始めた年齢を打ち明ける。
「へえ、俺のお母さんと同じだ」
「お母さんがいるの?」
「会ったことは、ないけど」
「タイトはいくつ?」
「十歳!」
「私の息子と一緒だ」
「息子がいるんだね」
「話したことはないよ」
 じゃあ俺たちはないない同士だ、とタイトが手を叩く。彼と話していると、自然に次の言葉が出てくる。この辺の子供たちをまとめているだけあるということだろう。
 バラバラとヘリの音が聞こえて上を向くと、少し先の大きな山にごみを捨てに来ていたところだった。
「きっと、みんな自分が捨てたものの行き先を知らないんだ」
 目を細めてヘリを見るタイトが少し寂しそうにそう言った。
 確かに、捨てたらその先なんて誰も考えていないだろう。人間関係も、切れてしまったらそこで終わりだ。私とケイジくんに血の繋がりなんかはなくて、間接的に繋がっていた息子も、彼が私の目を盗んで政府の人員募集に応募してしまった。大金の代わりに得たのは虚しさだけだ。
 捨てられた先がゴミだなんて、誰が決めたのだろう。
「私ね、ここで働こうと思うの」
 タイトはその言葉を待っていたように、大きく頷いて見せた。


 ゴミの処理をして、使えそうなものはバスに乗せて送り返す。朝から晩までそれを繰り返していると時間の感覚は次第になくなって、一日三回のヘリコプターの音を時計代わりにするようになった。顔の整ったアナウンサーが深刻なごみの増加、と言っていたのは本当だったらしい。
 廃棄物処理児童のみんなとも親しくなったけれど、私の心の穴は大きくなるばかりだ。
 夜の明かりがないからか、さいはてランドの空はずいぶんと綺麗だった。
「俺、お母さんに捨てられたんだ。だからここにいる。廃棄物処理児童は、みんな捨て子だよ」
「私はね、夫に捨てられちゃったんだよ」
 でも、とタイトの手を握る。くりっとした瞳がこちらを不思議そうに見上げた。
「違うよ、違う。タイトは、捨てられたんじゃないよ」
「そうだと、いいんだけど。でも、今はアンがいるから寂しくない。アンが俺たちのお母さんみたい!」
 彼の言葉に動揺して、咄嗟に上を向く。
 何か、証明するものがあったらなら、今すぐに彼を抱きしめてあげられるのに。
「ありがとう」
 私によく似たくせ毛を撫でるとタイトは、ケイジくんによく似た目を細めた。


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このストーリーに関するコメント

18/04/30 クナリ

ラストシーンで読者に驚きを与える構成は、入江さんの作品ではよく見ますが、今回もお見事です。
あとから思えば、主人公がここに来た動機がなんなのかが語られなかったに引っ掛かりを覚えてもよさそうですが、読んでいる最中には思いがいたりませんでした。
独特の世界観に、世界観事態の説明なく引き込んでいく手腕も含め、面白かったです。

18/04/30 入江弥彦

クナリ様
コメントありがとうございます。
世界観の表現をどこまでするかというので悩んだので、そう言っていただけると安心します!
ありがとうございます!

18/05/01 糸白澪子

冒頭から、するりと物語に吸い込まれてしまいました。
読んでいるそのときは物語の持つ優しい雰囲気に包まれていたような、そんな気分でした。
幸せだなぁ、なんて、ぼんやり思える素敵なお話だと思います。

18/05/06 入江弥彦

糸白澪子様
コメントありがとうございました。
楽しんでいただけたようでうれしいです。
暖かい気持ちをお届けできたのなら幸せです。

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