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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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追いかけっこ

18/04/29 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:198

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 月曜日、道の斜めに見える公園前に僕が集まる。いや、僕がなれない僕の仲間が集まる。僕の仲間以外の人はそれらをゴミ、と呼んだ。明日は第一月曜日。大型のゴミの日。
「悟、今日も行くぞ」
 僕はゴミの仲間になって、回収車に終わりの外まで連れていってもらいたいと願ってる。願い事の連続だけが僕を悪夢の擦過傷からダレイクト逃亡させてくれるけど、兄さんがそれを許さない。僕をゴミにしてくれない。
「うん、兄さん、外はいい風が吹いているね」
「ああ、外は気持ちがいいぞ」
 車椅子が押される。僕をゴミにしてくれる父さんと母さんが僕らを視線で引っ張ろうとじっとりした目で見ている。
「行ってきます」
 二人で出ていく玄関に、一個だけの「行ってきます」を残していく。父さんと母さん、二人に一個。喧嘩しないで分け合ってくれればいい。けど、そう、二人ともお腹いっぱいで手を付けないんだね。
「五月はいいなぁ」
「あぁ、産まれ月だからな。人は自分が産まれた月を好きになるらしいよ。いい季節だ」
「兄さんは十二月が好き?」
「あんまり好きじゃない。モテない男にとって十二月は好きになれる要素が少ない」
「サンタがいるじゃない」
「うちにサンタが来てくれたのは……、よそう」
「僕がこんなになるまでのこと」
「やめてくれ」
 兄さんが僕を押す。ゴミ収集車に追いつかれないように。毎日、毎日。追いかけっこに負けないように。僕はもう負けてもいいんだけど。
「今日は電車に乗っていいか?」
「何処まで? あ」
「ん?」
「バットだ」
 公園前にぼつぼつと置かれた大型ゴミの中に、白い木製のバットを見つけた。
「杉野さんだよ。朝挨拶した。近々家を出るらしい。断捨離中なんだそうだ」
「あの人、野球凄かったんでしょう」
「甲子園までもうちょっとだったらしい。四番だったって」
「それが、あ、ちょっと。もうちょっとバット見ていたいのに」
「三時から竹田書店でサイン会があるんだよ」
「え、じゃぁ大学前まで電車?」
「そう」
「死んだふりしとかないとな」
「悲しいことを言わないでくれ」
 兄さんが車椅子を押す。見ていたいバットは視界に追いつかず、僕を残してゴミになる。
「どうして、バットをゴミにしてしまったんだろう」
 駅までの緩い下り坂を、低空飛行の風を纏いながら進む。僕はずっとバットのことを考えていた。
「使うか、使わないか。だろう。使わないものはゴミになるんだ」
「使わなくても、見るだけで何かを思いだす物って捨てられなくない?」
「お前はその癖をやめにした方がいいぞ。いや、そっちの方がいいこともあるかもしれない。わからないけど。でもな、俺は断捨離悪くないって思ってる。捨てるとな、手が空くんだよ」
「僕は、僕がこうなる前をいっぱいいっぱい持ってたい。だから、父さんも母さんも僕を無視するのかな」
「悲しい話はやめてくれ」
 二個の電子カード。二個揃った「行ってきます」は電子の海に気泡となって消える。竹田書店で兄さんは推しのミステリー作家にサインをもらってニコニコしていた。サインの横に「変幻自在」という四字熟語が書かれていた。
「その四字熟語は、相手によって変えてるの?」
 帰りの緩い上り坂、兄さんは息を乱さない。「糞害に憤慨」という小さな看板は今日もある。
「いや、あの人の座右の銘みたいなもんだよ、サインとこれはセット。ずっとだ」 
「そう。変幻自在。小学生でも知ってるね。カッコ悪い」
「口の悪いやつだな」
「あんな売れない作家のサイン会に結構人来てたね、サクラ?」
「ファンはいるんだよ。それなりに」
「デビュー作以外つまんないのに」
「そう言うな」
 バットがまた見られる。そう思うと力強くなって、僕は兄さんを怒らせたくなったんだ。けど、兄さんは僕が何を言おうと怒りはしない。兄さんは冷たい。
「あれ、バット」
「なくなってるな」
 行きにあったバットが、帰りになくなっていた。僕は兄さんに頼んで公園に留まらせてもらう。推理を始めようじゃないか。ミステリーはお得意だろう、兄上。
「回収業者だろう」
「ううん、マニアは一人いれば値段はつくんだよ、二人いれば値段は青天井」
「未来のプロ野球選手なら可能性はあるかもしれないが、杉野さんはもう勤め人だからな」
「もしくは、殺人の凶器。手袋して持っていけば、指紋は杉野さんだ」
「捨てたのは俺が見てた。証人がいる」
 僕と兄さん。ゴミにされたのになりきれなかったかもしれないバットの行く末を二人で案じていた。五月の夕方。風はやっぱり爽やかだった。
「フギーーーニヤン!!」
「待てコラーーーーー!!」
 道路を焼き魚咥えた黒猫が走っていく。後を、バット握った吉田のお婆ちゃんが追いかけていく。
「吉田のお婆ちゃん、そのバット返して!」
 杉野さんも、追ってる。 


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