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腹時計さん

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シューカツのゴミ

18/04/28 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 腹時計 閲覧数:145

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 トイレの汚物入れにしわのついたストッキングを突っ込んだ。これで何度目だろうか。
 鞄に入れておいた予備のストッキングを取り出してたぐり寄せる。つま先を片方入れて慎重に伸ばしていく。膝の辺りまで到達すると、もう片方の足にもストッキングをかぶせていく。あとは両足を少しずつ交互に引き上げていけば、不透明な足ができあがる。
 インターンシップを受けていた半年前はこの作業でさっそく伝線させることもあったが、今はさすがにそんな失敗は犯さない。ただ、今回のように自分の鞄をぶつけて破れさせることはよくあるが。就活用のあの長方形の鞄はなかなか攻撃に適している。
 脱いでいたパンプスをはき直す。本当はもっと低いヒールのほうが歩きやすいのだろうが、足の太さをカバーするためにあえて五センチヒールを選んだ。私は何かに躓いた人のように足を動かしながらトイレを出た。通路には順番を待っている人の列ができていた。中には私と同じようなリクルートスーツを着て四角張った黒鞄を持っている子もいた。眉間にしわを寄せたおばさんがそそくさとすれ違い、私が入っていた個室のドアを勢いよく閉めた。
 ため息をつきながら手を洗い、鏡で自分の顔を見つめてみる。黒に戻したロングヘアにワックスを塗り込んで一本にまとめ、前髪を斜めに流した、ザ・就活生。なんの特徴もない、上品な色のチークと口紅が「老けたな」感をやたらと見事に演出していた。
 鼻がてかっていたのであぶらとり紙をとりだして顔面に押しつける。べったりと皮脂が付いて紙が半透明になった。これが就活のくだらない勲章なのかもしれない。端に置いてあるゴミ箱に捨てた。
 電車に乗り込んでも就活生はそこかしこにいる。セットした髪、腕時計、黒いスーツに黒い靴に黒い鞄。そしてだいたい手帳を見ている。これからの段取りや台詞を確認している人もいれば、ただ遠い目で見つめている人もいる。緊張を和らげるために音楽を聴いてみるけれども、その耳はそばに立っている就活生の集団がしゃべっている内容を聞き取ろうと必死なのである。
 駅を降りれば、黒い行進に巻き込まれる。このスーツの集団は、これからほとんどが振るい落とされ、「不要」というハンコを押されてしまうのだ。別に進んでこんなことがしたいのではない。しかし鮭が川を上るような不可抗力がそこには働いている。あるいはパブロフの犬のように、大学四年になると勝手にスーツを着て歩き出すのだ。私は自分の意思で面接に来たはずなのに、まるでそうではなかったような気がしてくる。ぬるい風が吹くが、私の汗は止まらない。とても暑い。きっと空調がきいた部屋に入っても、この汗は止まらないだろう。
 
 帰り道、ふと右のかかとに痛みを覚えた。だいぶ前にこのパンプスを初めて履いたときに靴ずれを起こして以来、ずっと絆創膏をはっていたのだが、面接の前にストッキングを履き替えた際に位置がずれてしまっていたらしい。面接前は緊張のあまり気づかなかった。膝を曲げて見てみると、絆創膏がストッキングの中でしわになり、その辺りの皮膚が赤くなっていた。早く新しい絆創膏を貼ったほうがよさそうだ。
 
 ああ、またゴミが増える。


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