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題名なんていらないよと彼女は言う

18/04/27 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 以下 閲覧数:150

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 セーラー服の少女が燃えるゴミの袋から頭を出していた。膝を抱えてつまらなそうに前を見ている。
 立ち止まった僕の後ろからサラリーマンがやってきた。彼は何の躊躇いもなく彼女のすぐ隣にゴミ袋を置き、顔色一つ変えることなく立ち去る。
 僕はそっとゴミ袋を置くと、そのまま少女を観察した。視線に気づいてないはずがないのに微動だにしない。
「君、何してるの?」
「私ゴミだから」
 素早い返事。きっと用意していた答えなのだ。彼女は僕の方を見ることさえしなかった。ただつまらなそうに前だけを眺めている。
 やがてゴミ収集車がやってきた。業者は少女入り以外のゴミ袋をぽいぽい車に投げ込み、最後に僕に向かって困った顔をした。
「袋に入り切らない大きさのゴミは回収出来ません。直接クリーンセンターへお持ち下さい」
 ゴミ収集車が走り去る。
 見れば、彼女は捨てられた子犬のように目で僕に何かを訴えようとしていた。
「あなた大学生?」
「うん」
「車は持ってる?」
「一応」
「クリーンセンター、連れてって?」
 真正面から見た彼女の顔はお世辞にも可愛いとは言えない地味顔。そんな娘の頼みを聞いて何の得になるわけでもないのに、僕は少女をゴミ袋ごと横抱きで抱えた。彼女が小柄で細身なことは幸いだった。

 クリーンセンターまでは十五分程。僕は少女との会話を試みた。最初は天気の話。学校の話や家族の話は返事をくれなかった。テレビのニュースの話も尻すぼみ。しかたなく僕は本題を切り出す。
「君、どうしてこんなことしてるの?」
「こんなこと?」
「ゴミ袋に入ったりして」
「私、ゴミなの」
「君、人間だよ」
「人間はゴミになり得ないという話?」
「うーん、そういう意味にもなるのかな?僕はね、どうして君が『自殺』でなく『捨てる』という選択をしたのかが不思議なんだ」
「殺したいんじゃなくて捨てたいのよ。首を吊ったり、手首を切ったりするんじゃなく、紙くずみたいに無感動に丸めてポイして躊躇いなく燃やされたいの」
 彼女が心底そう思っていることは口調から分かった。そこに至るまでの経緯を知りたいと思ったが、残念ながらクリーンセンターに到着してしまった。受付を済ませて建物の中に入る。ゴミと炎の匂いがした。焼却炉の入口は大人の腰くらいの高さにあって、黄色いチェーンを巻いたポールが手前に置いてあった。ポールの両端には男性職員が一人ずつ待機している。少女がにわかに焼却炉へ走り出しても止められるだろうとほっとする。
「こんにちは、ゴミはどれですか?」
「はい、私です」
「そうですか。すみませんがまだ使用が出来る大型家庭ゴミは同敷地内のリサイクルセンターに搬入して下さい」
「……随分慣れてるんですね。こんなふざけた話、驚くか戸惑うと思った」
「最近多いですよ。マニュアルとかはないけど、こう受け応えしろって上から言われて」
「世も末ですね」
 僕は少女を振り返る。
「だってさ。どうする?」
 少女は暫く考えているようだった。
「あなたは大丈夫なの、時間とか」
「今更と言えば今更だけど、今日は特に用事はないよ」
「じゃあ行ってみようかな」

 リサイクルセンターは圧巻だった。老若男女問わずたくさんの人々がゴミ袋を被って一列に並んでいた。列は長く、行き着く先がどうなっているのかを窺うことは出来ない。
 僕たちは最後尾の男性に話しかけた。
「こんにちは。長い列ですね」
「そうだね」
「この先ってどうなってるんですか?」
「さあ、分からないね。多分みんな知らないんじゃないかな」
「でも並んでるんですか?」
「嫌になったらいつでも列を抜ければいいし、とりあえずね。他に行きたいところもないし。一応、今のところ列を抜けて引き返してきた人はいないよ」
「だってさ。どうする?並ぶの?」
「並ぶわ。ここまで本当にありがとう」
 少女は男性のすぐ後ろに体育座りした。僕もその後ろに座る。
「何故、あなたも?」
「この先はどうなってるんだろうという興味だよ」
「やめといた方がいいわ。きっと碌でもないことになってるに決まってるもの。それにそんな考え悪趣味よ」
「どうして碌でもないことになってると思うの?」
「こんな私たちに今更救いが待ってるわけないもの。そもそも私たちは救いなんて求めてないの。ただ物として速やかに処分されたいだけなの。どういう形になるのかは分からないけど、それが叶うから誰も返ってこないんだわ」
 「君は賢いね」と相槌を打ったのは前に座っている男性だ。
「その子の言うとおりだ。君、早く帰りなさい。そして私達のことなんて忘れるんだ。それがお互いの為になる」
 僕は二人に会釈をして家に帰った。今ではもう彼らの顔も思い出せない。ただ、週に二回、ゴミ捨て場に行く度に誰かが袋に入っていないか確認する癖だけは残ってしまった。


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