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ニックネーム:『ゴミさん』

18/04/25 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 アラウンド君 閲覧数:116

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「ゴミさんって、覚えてる? 」
 美穂がドリンクバーから持ってきた野菜ジュースを飲みながら聞いてきた。
「ゴミさんって誰だっけ? 」
 私は、アイスコーヒーにミルクを入れながら、美穂を見た。美穂は高校の同級生の一人。大学生になった今も、暇があるときは、ファミレスに集合して、しゃべったりしている。今も、大学やバイトなどの、たわいも無い話をダラダラとしているところだった。
「私もさ、昨日の夜に思い出したんだけど、そういう生徒いなかったっけ? 」
 私たちの高校は男女共学だった。しかも、1学年で男女ともに200人ずつくらい居た。だから、いきなりニックネームを言われても、ピンと来ない人も多い。
「ゴミさんかぁ。居たかもしれないけど、ピンと来ないかなぁ」
 私の返答を聞いて、美穂はうーんと唸りながら、ストローを口に含んだ。なるべく、グロスがストローにつかないように飲む美穂を見て、高校生時代は化粧なんてせずにスッピンだったのにと思った。
「一年生の時に、クラス一緒だったみたいなんだけど。」
 確かに。一年生の時に私と美穂は同じクラスだった。そこで、私たちは出会っている。
「ゴミさんって、男かな、女かな? 」私は、ストローに口をつけて、アイスコーヒーを吸い込んだ。ミルクだけを入れたら、意外と苦かったので、ガムシロップに手を伸ばした。「覚えてる? 」
「多分、女の子かな? 」
 美穂は、自信無さげにそう答えた。
「女の子かぁ。1年生のクラスの女子って、15人だったはずだから。なんなら、全員分を思い出してみようか」無言で、美穂が頷いた。「まず。学級委員長の久美子がルーム長って呼ばれてて、富美、香織、美波はそのまま名前で呼ばれてた。それで、ソフト部の友梨が色黒だからクロちゃん」
「クロちゃんは、苗字が黒川だからだよ」
 ボソッと美穂が修正する。
「そうだっけ。じゃあ、それで。あとは、美香がミカリン。佐江はサエちゃん。理沙はりさポン。佐藤三千花がサトちゃん。鈴木早苗がスナエだったでしょ」
 三年前のクラスメイトがスラスラ出てくる自分の記憶力に感心した。クラスメイトのニックネームは出てくるのに、手にもったガムシロップは、口が中々空かなくて、戸惑っていた。案外、そういう時の方が、思い出す作業は上手くいくものなのかもしれない。
「後は、いつも遊んでる絵里と由佳と由紀恵と私と美穂じゃん。ゴミさんなんていないでしょ」
 やっとこさ空いたガムシロップを入れて、アイスコーヒーをくるくるかき回した。甘くなったアイスコーヒーを吸い込むと、頭を使ったあとだけに、糖分が回ってスッキリした。
「そうだよね。ゴミさんなんていなかったよね。何の記憶だったんだろう。」
 美穂は、私の話を聞きながら、野菜ジュースを飲み終えていた。最後の方は、吸い上げが空振りして、ズズズと空になったコップが鳴っていた。
「そんなことよりさ。大学生活はエンジョイしているの? 」
 美穂は、勉強が出来たわけでは無いが、とりあえずは名前を書けば入れるような大学に行き、それなりに大学生ライフをエンジョイしているらしかった。
「そうだね。順調だよ。勉強にも何とかついていってるし。」
 美穂の空のコップがカランと鳴った。
「彼氏は出来た? 」
「何とかね。テニスサークルの先輩とお付き合いすることになって。夏休みに、四国旅行に行くつもり」
「へぇー。羨ましいなぁ」
「えへへ。恥ずかしくなっちゃった。」嬉しそうに笑うと、美穂は立ち上がった。「飲み物取ってくるね」
 フリードリンクのコーナーに向かう美穂を見ながら、絵里にメールを打った。
『美穂の疑いは、晴れたと思う。これは貸しね。』
 絵里のやつ、美穂がいる前で、あの娘の裏のあだ名の『ゴミさん』を使うとか、おっちょこちょい過ぎるでしょ。
 美穂は頭悪いし、勘は悪いし、運動音痴。オシャレのセンスも無くてダサいし、可愛くもない。性格もよくない。愛想も振りまけない。正直、使えない娘。
 それでも付き合ってるのは、親がお金持ちで、よくおごってくれたりするから。
 使えない同級生に、ただのゴミのような存在の娘に、利用出来る価値を与えることで仲良くしている。友達として存在する大義名分を与えている。
 メールを打ち終えると、ドリンクコーナーで、まだ野菜ジュースを汲んでいる美穂を眺めていた。
「健康に良さそうな野菜ジュースだって、飲み過ぎると体には良くない。あなたがダメなのは、そういうところもなんだよ、ゴミさん」
 自分にだけ聞こえるような小声で、私はつぶやいた。私の声は、ファミリーレストランの雑多な音にかき消され、あの娘までは届くわけもない。
 何も知らない『ゴミさん』は、相変わらず、嬉しそうに戻ってきた。私は『ゴミさん』に向かって、愛想を込めて、笑顔を作るのだった。


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