1. トップページ
  2. オアシス

路地裏さん

カクヨムにて短編を書いています。 少し不器用で、時に残酷で、愛しい人達の物語を綴っていきたいです。

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

オアシス

18/04/24 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 路地裏 閲覧数:114

この作品を評価する

真面目な人間ほど馬鹿を見るというが、正しく今の俺に相応しい言葉だ。

10年前、俺は黒づくめの男達にこのゴミ溜めへ連れて来られた。

「君にしか出来ないんだ」
「君に期待している」
「君が必要なんだ」

そんな言葉を並べられ、若かった俺はすっかり気持ち良くなってしまった。俺は何でもやった。周囲が嫌がる事も進んでやった。目の前に積まれたゴミを分別し、日付が変わっても溶かし続けた。この大量のゴミを溶かし続ければ、いつか彼らに認められると思っていたからだ。来る日も来る日もゴミを必死に燃やし、溶かした。

しかし、俺は気付いてしまった。優遇される人間とは、ゴミを他人に押し付け、上手く立ち回れる者だという事に。

ゴミは、俺だったのだ。

その日は雨が降っていた。俺は黒づくめの服に袖を通し、いつも通りゴミ溜めへと向かう。通い慣れた道に飽きてしまったのか、何となくその日は違う道を使う事にした。

世界が闇に包まれたように見えていた俺には、その光は眩し過ぎた。光の中には恐ろしい程美しい女性がいた。澄んだ瞳。透き通るような白い肌。雨に少し濡れた美しい黒髪。
彼女が凛と立つその場所だけ草木が生い茂り、地に落ちる雨の雫から作られた泉には虹が映る。まるで楽園のようだ。

俺は彼女に恋をした。

何とか親しくなる事に成功したものの、彼女は想像以上に素晴らしい女性で、俺が隣に立つ事に申し訳なさすら覚えた。
沢山話をした。どんな食べ物が好きか。趣味は何か。彼女がどこで生まれ、どう生きてきたのか。俺のつまらない話にも、彼女は微笑みながら相槌を打ってくれた。

10年前、ゴミ溜めに連れて来られた日の事をふと思い出した。

目の前に積まれた大量のゴミ。これらを全て溶かし終えれば、この場所は俺にとっての楽園になるのだと信じていた。緑に生い茂る草木。色とりどりに咲き誇る花。澄んだ泉。

一つとして見る事は出来なかった。その日のゴミを溶かし終われば、また次のゴミがやってくる毎日。上手くできない自分を責める日々。もううんざりだった。死んでしまおうと何度も思った。でも死ぬ勇気なんてなかった。それに信じたかったのだ。

いつか報われる日が来ると。

しかし、俺は気付いてしまった。俺にとっての楽園は、彼女そのものだという事に。

俺は今も変わらずくたびれたスーツに身を通し、いつもの道を通って会社に向かっている。妻が毎朝作ってくれる弁当を持って。

不思議なもので、足取りはとても軽い。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン