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アシタバさん

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ごみに埋もれる、A子と、部屋と、そして

18/04/21 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:2件 アシタバ 閲覧数:202

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 A子の親友という地位は鼻が高い。
 桜の花のような美貌と向日葵のような明るさを兼ね備えたA子は学生時代でも、働きだしてからも、常に大勢の人間に愛されてきた。もちろん、わたしも美しいA子が大好きで、さらに自分はA子の幼馴染で特別な存在だという周囲への優越感も非常に心地よかった。A子はわたしの人生に彩りをくれる。
 なのに、最近どうしたことだろうか? 
 A子は突然、人が変わってしまった。

「A子。この部屋なんとかしなよ」
 わたしは必死に訴えかけた。けれど、A子はわたしの言葉に耳を貸さず、仰向けに寝そべって本に読み耽っていた。A子がクッション代わりにしているモノをちらりと見て不快感に鼻が引きつる。ごみがギッシリ詰まったポリエチレンのごみ袋。その半透明の内側に汚い生ごみが薄ら見えて、吐き気が込み上げた。同じようなごみ袋がA子の部屋には数えきれないほど溢れかえっており、A子ごとこの部屋を埋め尽くそうとしていた。悪臭際立つこの部屋に入ってからというもの、わたしの鳥肌は一向に収まらない。
「こんなの間違っているわ」
 わたしが声を荒げたのでようやくA子が本から目を離した。今やA子はこの部屋の主に相応しい風貌だった。かつての流れるような黒髪はべとりと脂っぽく、瑞々しかった肌は荒れ放題、唯一身につけているTシャツはヨレヨレに伸びきってみすぼらしいことこの上なかった。これがA子でなかったら視界に入れることすら拒否する人間である。しかし、わたしを見つめる彼女の瞳は相変わらず切れ長で美しくて、その光景に思わず胸がしめつけられた。
「何が間違っているというの?」
 不潔な見た目に反して透き通るような声。その異様さは受け入れがたく下唇を噛む。
「部屋のごみを捨てて、身体を清潔にして、綺麗な服を着て、化粧をして」
 そして、本来のあなたに戻って。
 わたしの願いも虚しく、A子はクッションにしていたごみ袋に手で裂け目を入れるとなかをまさぐった。何をして? と思ったら、黒く変色しはじめたリンゴを手にして、そして、「あら、まだ平気そう」と何の躊躇もなく、それに齧りついた。
 わたしは口を両手で覆う。
「ごみは減らさないと」A子がケタケタ笑い、それを見つめるわたしの目から涙が零れた。
「お願い、ごみを捨てて、ごみを拾ってくるのをやめて」
 嗚咽交じりに懇願するわたしを見たA子は、ふと、正気に戻った顔つきになり、悲しげな表情を浮かべた。わたしの肩に温かな手を置く彼女は以前の性格に戻った気がして、わたしの胸に希望の陽がさした。
 だが、A子の首は横に揺れた。
「わたしは出来る限りごみを拾い続けるわ」
「そんなどうして」
 縋るような視線をむけるとA子はわたしの目の奥をじっと見据え、確かな決意を込めて言った。
「あなた達は間違っている。狂ったと言われても元の生活に戻る気はないわ」
 わたしが間違っている?
 不可解な回答だった。でも、それが二人の決別を意味していることだけはわかる。こんなA子は、もう手に負えない。
「さようなら」
 わたしはごみのなかを泳ぐようにして、彼女の部屋を後にした。二度と彼女に、会うこともない。

 ようやく部屋の外に出ることが出来た。室内は酷い臭いだった。しかし、まだ落ちつけない。外は外で酷い臭いだ。早く空気清浄機のついた自分の部屋に戻り、シャワーを浴びたい。
「迎えのドローンタクシーはまだかしら?」
 A子の住む高層居住塔からの見晴らしは抜群だ。空を飛び回る無数のドローン達がよく見える。インターネットで買い求められた食料、衣服、嗜好品などの荷物を丁寧に運び、逆に必要のない廃棄物をそこかしこの地上に撒き散らす。世界中のごみ処理場は遠い昔に多すぎるごみでパンクした。かつての美しい大地はもうごみに埋もれて見ることもない。穢れた地上から逃れるように人々は天に向かって建造物をいくつも造り続けている。この世界はごみの大地と塔の森である。その塔の間を人や物を運ぶ大量のドローン達が飛び回っていた。
 人に必要なものは全てある。ただ、余計なものを捨てきれない時代。
 汚いものに埋もれて生きるなど誰が認めるものか。華麗に美しく生きてこそ、高度な文明社会を持つ人類の正しい姿と言える。もうすぐ人類の悲願は達成され、新惑星への移住計画を成功させるのだ。わたしは美しいA子と新品の綺麗な星で煌びやかな生活を送りたかった。
 でも――
「あんな女もういらない」A子はこの星に残ると言う。
 もういい。増え続けるこの世界のごみをほんのわずか拾いあげ、生活の糧にしている狂った女など、もういらない。捨てるしかない、地球も、A子も。
 可哀想なわたし、けど、ちっとも寂しくないわ、だって
「嗚呼、楽しみ」
 地球と違って、ごみひとつない美しい星がわたしを待っているのですもの。


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このストーリーに関するコメント

18/04/22 文月めぐ

拝読いたしました。
かつての美貌を失い、ごみ屋敷の中で生活するA子。主人公「わたし」の視点から見ると、A子の生活はとても受け入れられるものではありません。しかし、エンディングで地上にあふれた廃棄物の描写があることで、A子とわたし、どちらが間違っているのか、考えさせられました。

18/04/22 アシタバ

文月めぐ様
コメントありがとうございます。
ごみというのは私達の生活に密接に関わっていて、なおかつ本当に難しい問題ですね。現代社会は色々と便利になってますが、その裏ではごみが確実に増えている。でも、ごみの捨て場は無限ではない。どうすれば良いのか? 色々と考えてしまうテーマですよね。稚拙ですがこの話にそんな想いが少しでも通っていたら幸いなのですが…。
お読みいただきありがとうございました。

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