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りんりんりえさん

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将来の夢
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ヒーローは引退しました

18/04/21 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 りんりんりえ 閲覧数:183

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 公園の真ん中にある噴水が壊れて、辺り一面がびしょ濡れになった。
 噴水の壊れ方は漫画みたいにど派手で、急にぱかーんと真ん中から割れたと思えば、四方八方へ水が噴き出した。ひび割れた塗装と砕けたコンクリートの欠片は散らばるし、水は止まんないし、周りに敷かれている砂はどんどん泥になっていく。誰も直しに来ない。だった噴水が壊れたのを見たのは、ぼんやりベンチに座ってアイスを食べていた僕だけ。こんな雨が降りそうな日に、公園で遊ぶ子供も、散歩をするおじいちゃんおばあちゃんもいない。そしてたった一人の目撃者である僕が通報したり人を呼ばない限り、噴水が割れたことを誰も知らないままなのは当然のことだった。
 がじがじとアイスのコーンを齧る。じわりとバニラアイスが滲んできた。急いで吸ったけど残念間に合わず、アイスは指へたらりと垂れる。ジーンズでごしごしと拭ってみたけど、砂糖をたっぷりと含んだアイスはべたつきを残した。くそ。残りを無理やり口に詰め込んでトイレに向かう。噴水の横を通れば、足裏からべちゃべちゃと音がして泥が跳ねた。指のべたつきは気になるのに、ジーンズの汚れに対してはまあいいかという気持ちになった。そろそろ捨てようかなって思ってたし。
 トイレに入り、洗面台で手を洗う。ハンカチは持ってないし、こんな田舎の公園のトイレに手拭き用の紙も、乾燥させる機械もないので、適当に宙で振って水気を飛ばした。
 薄汚れたタイルの床を歩いて外に出れば、噴水は相も変わらず水をまき散らし続けている。また同じように泥の上をべちゃべちゃ踏みしめてベンチに戻った。だってしょうがないじゃん。噴水なんて直せないし。人を呼びに行くのも面倒。僕は公園を綺麗にするヒーローじゃないんだ、どうせ誰かが見つけるさ。
 そんなわけで、生乾きの手をジーンズのポケットに突っ込みスマホを取り出す。圏外。ここは現代に似つかわしくなく大変電波が悪い。ロックを解除すれば、ホーム画面に設定している火薬ましましの爆破シーンが映し出された。燃え上がる炎の奥にはうっすらと黒い人影。うんうんと納得しながらスワイプ。SNSのアプリを開くと、僕の呟きとお気に入りをしているアカウントの呟きが出てきた。僕の最終呟きは13日前、お気に入りの『煉獄戦隊もえるんジャー公式アカウント』は1年と8ヵ月前で止まっている。更新しようとしてやめた。圏外じゃん。
「あーあ」
 つまらない。
 アイスもう一個食べるか、と思いポケットから財布を取り出したとき、カードが一枚ひらりと落ちてきた。今日はさっぱり太陽が見えない曇り空だけど、カードはこれでもかというくらいにきらきらと輝いている。拾い上げて眺めたそれには『煉獄戦隊もえるんジャー 灼熱レッド』と書かれており、決めポーズ姿の赤いヒーローがでかでかと映っている。4本入りの安っぽい箱入りソーセージにランダムで1枚付いてくるものだ。そして僕の手にあるこれは、輝きからも分かる通り『もえあがレア』のランクに分類される、滅多に出ない貴重なカードだ。僕の家には同じものが10枚くらいある。ちなみにオークションサイトで検索すると1円で出品されている。なんだよ1円って。そりゃ1円に笑う者は1円に泣くとはいうけどさ、1円って。もえあがレアだぞ。もっとありがたがれよ。
 虚しさに襲われ、へなへなとベンチに座る。隣にカードを置いてアドレス帳を開いた。グループ分けして登録している名前は上から順に『煌々イエロー』『明瞭グリーン』『妖艶ピンク』『深海ブルー』かつての仲間たちの名前。はしゃいだ僕がこの名前で登録したら苦笑いしていた。そして自分のプロフィール欄には『灼熱レッド』の文字。
 約2年前に放映された子供向け番組、煉獄戦隊もえるんジャーは低視聴率により打ち切り終了となった。戦隊モノが打ち切りってなんだ? 主役を務めた作品がそこまでつまらなかった理由が、僕には分からない。ソーセージもおもちゃも大量に在庫が残り、なにも悪くない僕たちが怒られた。不人気ヒーローに芸能関係の仕事なんてくるわけがなくて、僕はこんな田舎にある実家に戻り、押し付けられたまま捨てられないたくさんのレアカードと変身ベルトに囲まれ暮らしている。
 噴水がどかんと音を立てた。また大きく壊れたらしい。風で飛ばされたカップラーメンのゴミがぬかるんだ土にべちゃりと着地する。
 僕は一番仲が良かった明瞭グリーンの番号を開くと、そっと通話ボタンを押した。
『おかけになった番号は現在使われておりません』
 アナウンスを聞いた瞬間「なーんだ」と声が出た。
 僕は仲間4人の番号を消去し、カードを破いて壊れた噴水に投げ入れる。目的を果たせないものは全てゴミだ。循環しなくなった噴水も、世間から忘れられたヒーローも。
「そろそろ僕も引退だ」
 明日は職安に行こうと思う。


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