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比些志さん

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ゴミ自動回収社会

18/04/15 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 比些志 閲覧数:180

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ゴミ自動回収システムが設置された。道ばたや公園に落ちたゴミが自動的にゴミ箱やゴミ処理場に回収されるようになった。吸い殻もジュースの缶、御菓子の空箱、スーパーのレジ袋や産業廃棄物などの不法投棄にいたるまでひとりでに気がついたら消えてしまうのだ。おかげで道路や川や公園もまたたくまにきれいになった。ボクの住む街はどんどんきれいになってゆく。

社会の貧困が進み、数十年前から都会のゴミ問題が深刻化し、ネズミやゴキブリの増加とともに疫病の蔓延が問題視されるようになっていた。人々の心も環境の悪化のせいで確実にすさんでいた。そんな状況で導入されたゴミ自動回収システムは、AIを駆使した最先端の技術であり、導入前にはその決して安くはないコストのせいで、あれこれ難癖をつける人もいたようだけど、たぶん導入された瞬間からシステムの批判をする人は一人もいなくなったような気がする。

ボクはちょうど社会人になったばかりだったので、仕事や会社生活に慣れることに精一杯であり、あまり社会の変化には関心がなかった。ゴミ回収システムの導入以降、たしかに朝晩の通勤路がきれいになってゆく実感はあった。けれど一日中スマホばかり見ているにもかかわらず、ボクに対しては嫌味な説教しか口にしない会社の上司の存在のほうがボクにとってはよほど深刻だった。その上司は、ボクのことを顔さえ見れば給料泥棒と罵るけど、ボクにとってみれば、その上司こそが社会のゴミのように思えた。

そんなボクの心のよりどころは、同僚のオサムと一つ年上のサトミ先輩だった。オサムはボク以上に要領が悪くてボク以上に上司から厳しい指導を受けていたので、その存在自体が励みになっていた。サトミ先輩はすごい美人というわけでもなく、勤務態度もお世辞にもいいとは言えないけど、誰に対しても愛嬌があり、みんなから好かれていた。ボクにもいつも優しい言葉をかけてくれた。ボクは二人がいたからこそ会社を辞めずに仕事を続けることができた。

そのうち、ひところは地下街や河川敷にあふれていたホームレスの姿が見えなくなった。それと同時に社会では犯罪率が急激に下がりはじめた。ボクのまわりでも、ヤクザや不良少年と呼ばれる人々がいなくなり、いじめや非行もなくなったらしいが、それがどうしてなのか、よくわかっていなかったし、理解する余裕もなかった。実際、ボクに対する上司のいじめは、なくなるどころかますますひどくなっていた。

しかし、ある日、奇跡が起きた。大嫌いな上司が会社から消えたのだ。理由はわからないが、部内会議で一身上の都合によって退職したことが発表された時、ボクは、これをきっかけに自分の会社生活がバラ色に一変すると思った。

ところが、オサムとボクとの新たな門出の祝杯を三人であげた翌日、大好きなサトミ先輩が会社に来なくなった。メールやコミュニュケーションアプリで連絡を取っても全くレスがない。次の週にはオサムもいなくなった。オサムもその日から音信不通ーー。会社からは、二人とも一身上の都合で退職、と発表された。

そこで初めて、二人はゴミ回収システムに回収されたことに気がついた。社会から見れば、二人とも役に立たないゴミ同然の存在と認識されてしまったのだ。

やがて、どこからともなく新しくやってきた上司は、鬼のような男だった。大声で怒鳴り散らしながら部下を仕事に駆り立てた。部下も必死にならざるをえない。皆、血相を変えて仕事をした。それが本当に皆が求めた社会なんだろうかと疑問に感じたけど、ボクにできることは、誰からも役たたずと言われないようただひたすらに仕事に打ちこむだけだった。…了


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