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横井雀さん

趣味でぼちぼち小説書いてます。主に短編〜中編を書きます。 長めのを書きたい……

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ある日のゴミ捨て

18/04/13 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 横井雀 閲覧数:53

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「ツギの角をヒダリです」
 携帯端末型のナビから流れてくる電子音声に従って十字路を左に曲がる。時間が遅いせいか、それとも繁華街や住宅地から少し離れた場所というせいか。どちらにせよ他の通行人は見かけない。ただシャッターが閉まった商店と、等間隔に続く街灯、それに集まる羽虫の群れが見られるだけだ。
 もし通行人がいれば、二十代も後半に差し掛かった女性がこんな寂しい場所を歩いて何をしているのかと思うかもしれない。だが、なんてことはない。ただのゴミ捨てに出てるだけだ。
 私の右手には、そのゴミ――以前の私の右手がにあった。
 元右手――白いシリコンの中に機械が押し込められた義手が右手には握られている。それがあった場所には今、肌色の腕がある。これが今の私の右手だ。
 医療技術が進歩して細胞一つと手術一回で腕を再生できる時代。もはや義手の出番は奪われたと言っていいだろう。しかし、不要になったからと言って適当にその辺りに捨てることはできない。中にモーターやら機械部品やらが使われているので、ちゃんとした集積所に捨てなければならないと、この辺りの地区では決まっている。
「モクテキチに着きました」
 ナビが抑揚のない声で自らの仕事の終了を告げる。役目を終えたそれを上着のポケットに突っ込んだ。
 集積所には大きな看板があるわけでもなく、ただスーパーの買い物かごのようなものが一つ置かれ、そこに「ゴミ捨て場」というプレートがぶら下がっているだけだ。その中にいくつか、誰かの「元腕」が置かれていた。
 金属がむき出しになった武骨なデザインのもの、まだ小さく子供用と思しきもの。そのどれもが今は役目を強制的に終えさせられ、今はただ降り注がれる街灯の光を受けるだけだ。
 この持ち主たちは決して恨みを込めて捨てたわけではない。ただ、不要になっただけなのだ。
 私もこの、昔の腕に愛着が無かった、といえば嘘になる。幼少時代、少女時代、青春時代を共に過ごした手だ。その名の通り「手から離れた」時には人並みの感傷を味わった。だが、それも数週間の命。その後は、ただそこにあるだけのオブジェとしての扱いを受けた。しかし、アンティークや洒落た雑貨のようにそこにあることでの価値はない。つまり、たった一つの私の必須品から、ただそこにあるだけの邪魔な塊へと成り下がったのだ。
 どれほど重宝されたものでも、少し時代が変わればただの廃棄物だ。たとえそこにどんな感情があろうがその事実は変わらない。
 私は右手のそれをかごの中にそっと入れた。そして振り返らずそのまま同じ道のりを辿り始めた。


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