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投書、ある障害児を持つ母親の手記

18/04/08 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 キップル 閲覧数:235

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「障害者はゴミ。生きてる価値がない。」

 こんなネット上の書き込みを見て胸が痛くなった。私には重度の自閉と行動障害を持つ小学六年生の息子がいる。名前は碧依。我が息子ながらとんでもないトラブルメーカーだ。

 碧依はとにかくジッとしていることが苦手だ。起きてる間はほんの一秒だって止まったら死んでしまうかのように動き続けている。何でも気になる物があると、一目散に駆けて行って手を伸ばす。戸棚の取っ手、床に落ちたパンくず、ほっぽっていた洋服、本棚の雑誌、ペットの犬…。その動きの速いこと速いこと。碧依に捕まった物は握られ、潰され、引っ張られ、何であれめちゃくちゃになる。自分だって危険だ。蒼依は小さい頃、裁縫箱をひっくり返し、まち針を爪と指の間に深く刺した。血だらけの息子がとんでもない声で泣き叫けぶ凄惨な光景を私は一生忘れないだろう。

 自分ならまだしも、蒼依は他人も傷つける。通りすがりの人の手をサッと掴み、口元に持っていきガブリ。渾身の力を込めてくっきりした歯型を残す。いつか人様に大きな怪我をさせるか、道路に飛び出して車に轢かれるのではないかとヒヤヒヤする。だから、外に出るときはいつも両方の手首をギュッと押さえていなければならない。幸い学校の先生やヘルパーさんのおかげで彼は今日まで元気に生きてきた。ふと振り返ると、何事もなかった一日一日は小さな奇跡の積み重ねだったのではないかと思えてくる。

「障害者は何も生み出さない。」

 確かに碧依が将来大きくなって、普通の人と同じように仕事して、目に見える物を生み出すことはないだろう。たぶん学校を卒業したら、どこかの施設に入って多くの人のお世話になり、迷惑を掛けながら一生を終えていく。本当はずっとそばにいてあげたいけど、いつか私も死ぬ。その時に備え、施設に慣れるには早くから入所した方がいい。一緒に暮らせるのはあと五、六年だ。

「碧依やめなさい。触らないで!」

 蒼依は近くにある物を何でも触りたがるので、つい叱ることが多くなる。大切な物を壊されたり、はさみや包丁に手を伸ばすので仕方ないのかもしれない。でも先日、碧依が家に入ったとたんクローゼットに駆けて行ったから、また服をぐちゃぐちゃにするんだろうと思って「ダメよ!」と叱ったら、ハンガーを持ってきた。いつものように、コートを掛けて欲しかったみたい。感情的に怒鳴った自分が恥ずかしくなった。

 蒼依はほとんど言葉を話せないから表情やしぐさ、行動をよく見てないと(見ていても)何を考えているか分からない。理不尽な目に遭って、辛いとか悲しいって思った時に、それを口にできないのはどれほど苦しいんだろう。私は友達や夫にぶちまけてストレス発散するから余計にそう思う。

 だから私は蒼依のことをジッと見る。目の前の行動にとらわれないで、この子の本当の思いを汲み取るように務める。でもそれは碧依だけじゃなく、人と関わる時には必要なことだ。子供でも大人でも健常者でも、言葉以外の色んな手段で意志を伝えている。それを分かって接すると、自然とよい関係が築けるのだ。子育てはよく親の学びであると言われるが、蒼依ほどたくさんのことを教えてくれる子はそういないのではないだろうか。

 取り留めもなく書いてきたが、重い障害を持つ子を育てるのはやっぱり辛い。破天荒な日々に疲れ切り、将来の不安に押しつぶされ、気が狂いそうになったのは一度や二度ではない。全部捨てて、どこか遠くへ行けたらどれほど楽だろうか。そう思うたびに泣いて泣いて、日が暮れる。

 一日中アクセル全開で過ごす碧依は、夜になるとスイッチが切れたおもちゃのようにフッと眠りに落ちる。目を閉じ、よだれを垂らして、少しの警戒心も感じられないリラックスした表情を見ると、こっちまで肩の力が抜けてくる。人の気持ちも知らずにのんきな奴だと言いたくもなるが、それも含めて蒼依の魅力だ。

「役に立つってそんなに大事なこと?」

 碧依が生まれてから、人の価値って何だろうってずっと考えてきた。昔はバリバリ働くか良妻賢母になって、誰かの役に立つことだと思っていた。だけど、それは違うと今は言える。

 どんな人でもいつか年を取れば働けなくなる。介護士にお世話されながら生きる高齢者には何の価値もないのだろうか。違う。生まれたばかりの赤ちゃんも、病気や怪我で動けない人もみーんな無価値なのか。違う。人間は生きている一瞬一瞬が大事だ。役に立つとか立たないとか、価値があるとかないとか、そんなことはどうだっていい。今日も生きている。それだけで百点満点だ。

 碧依、お母さんの子供になってくれて本当にありがとう。お母さんはいつまでも蒼依の幸せを願ってるよ。どうか生まれ変わってもまた会えますように。あ、次回はもうちょっと落ち着きがあってもいいからね(笑)。


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