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吉岡 幸一さん

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ゴミ拾いとチューリップ祭り

18/04/07 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:94

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 今年も河川敷では恒例のチューリップ祭りが開かれていた。
 十年前から市が主催している祭りで、河川敷には十万本もの色とりどりのチューリップがいまを盛りと花を咲かせていた。
 焼きそばにたこ焼き、焼き鳥などの屋台もあれば、一列に並べられた白いテントのなかでは、福祉施設の関係者が作ったパンや手作り弁当が売られ、観光協会のパンフレットや商工会のチラシなども並べられている。
 休みの日になれば遠くから大勢の人々がやってきた。家族連れやカップルや子供会などの様々なグループ。ベビーカーに乗せられた赤ん坊から、車いすの老人までが年齢に関係なく華やかな色合いのチューリップを楽しんでいた。
 チューリップ畑を眺めたあと、人々は屋台で買った団子を食べたり、木陰で持参した弁当をひろげて食べたりしていた。
 食べた後で出たゴミは祭り会場の端に設置されたゴミ捨て場に持って行けばよいだけだったので、人々はビニール袋に入れたり、紙を丸めたりしてゴミ捨て場に持って行っていた。
 ほとんどの人が真面目にゴミ捨て場に捨てていたが、中には木陰や人目のつかないテントの裏などに捨てたりする人もいた。悪意はなくてもゴミを運ぶ途中で手からこぼれて落ちて、そのままそれに気がつかない人もいたので、時間がたてばたつほど、ゴミは増えていき、美しいチューリップ畑のなかでも目につくようになっていった。

 ここに祭りが終わるまでの間、河川敷をきれい保つために市の臨時職員として雇われた老人がいた。
 老人は日々散乱しつづけるゴミに我慢ができなくなっていた。落ちているゴミを黙々と拾い、それをゴミ捨て場まで持って行けばよいというだけの簡単な仕事ではあったが、老人は求められる以上のことをせずにはいられなかった。
 ゴミをこっそり指定場所以外に捨てる人をみつければ、そばに行って注意した。地面にゴミが落ちているのを見つければ、それが誰の捨てたのかわからないのなら周りの全ての人に向かって声をあげて叱った。
 黙って、捨てられたゴミを拾うだけなんてできなかった。自分のゴミは自分で片付ける、そんな当たり前のこともできない人々に怒りを感じていた。
 老人は自宅でもチューリップを育て、地域を愛していたが、もと教師ということもあってか、人一倍まじめで正義感も強かった。
 祭りにきた人から苦情がきたのか、市の正規職員から「ただ黙ってゴミを拾ってくれればいいから」と、言われたが論理的に反論して正規職員を困らせた。
 人としてゴミをそこら辺に放り捨てることは正しいのか。
 そう問われると、正規職員は「まあまあ、穏便に」と答えて苦笑いするのが精一杯だった。
 老人への苦情は日増しに増え、市の正規職員達を悩ませた。
「いっそ契約を解除してしまえばよい」と、言い出す職員もいたが、職務怠慢なわけでもない老人を辞めさせることは法的に問題があった。
 結果、「祭りが終わるまでの間、荒波をたてないようにそっと見守ることにしよう。祭りが終われば契約も満了するから、それまでの間の辛抱だ」と話合って、やりすごすことに決めたのだった。

 祭りの最後の日、事件が起こった。
 チューリップ畑のなかで「ゴミを捨てた」「捨てていない」と、老人と青年が言い争っていた。
「ポケットからゴミが落ちただけだ」と青年は言い「わざと捨てた」と老人は疑っていた。
 それを外から見ていた人はいないようで、どちらの言い分が正しいのか誰にもわからなかった。
 騒ぎを聞きつけて駆けよってきた市の正規職員は早く騒ぎをしずめたいようで「まあ、とにかくゴミが落ちっぱなしでなくて良かったですね」と、どちらつかずの反応で逃げようとした。
 青年は疑われたことによほど腹がたっていたのだろう。背負っていたリュックサックを下ろして紐をほどくと、なかに入っていた大量のゴミをチューリップ畑にぶちまけた。リュックサックの中身は全てがゴミだった。
「俺は自発的にゴミ拾いをしていたんだ。金なんてもらってない。あんたは所詮、金をもらってゴミ拾いをしているだけの偽善者だ」
 偽善者と呼ばれた老人は顔を真っ赤にさせながら青年に飛びかかった。胸もとを掴んで押し倒し「偽善じゃない。仕事だ」と、叫びながら青年の顔を殴った。
 チューリップの花の上で二人は転がりながら揉合った。チューリップの花は無残に千切れ、折れ、倒れていったが二人の手が止まることはなかった。
「やめて、お花がかわいそう」
 争う二人の前に女の子が近づいてきた。女の子は涙を流しながら「お花が死んじゃう」と、折れたチューリップを胸に抱いた。
 老人と青年の手はとまり、立ち上がるとバツの悪そうな顔をして散らばったゴミを集めはじめた。
 市の正規職員は取り囲む人々の目を気にしながら頭を抱え「困った、こまった」と、ただ繰り返すばかりだった。


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