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佐々木嘘さん

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ゴミ捨て場の女

18/04/06 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:208

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「ねぇ。お姉さんは捨てられた人間なの?捨てられたお人形なの?」
「……ど、どっちだと思う…?」

全くもってひどい雨の日だった。その日、「気持ち悪っ、別れよ」と強制的に縁を切られ、ご丁寧に45L透明ゴミ袋と一緒にアパートのゴミ捨て場に押し込めて鍵まで閉められ、二重の意味で男に捨てられてしまったのだ。
回収後に出された燃えるごみと曜日を無視して置かれてるプラごみ資源ごみに囲まれてまるで動物園の狂ったゴリラのように柵をガンガン揺らしたけれど鍵は一向にびくともせず、春先の気温差に夕方から徐々に寒さが襲ってきていた。
体内感覚で約2時間。裏通りなうえに今日に限ってアパートの住人は誰も出てこない。だんだん抵抗することが恥ずかしくなって虚しくなって、私は諦めるようにゴミ袋を丁寧に頭にかぶり直し少しばかりの雨を凌いでその場にぼやぁっと座り込んでいた。でももういいのかもしれない。本当に。このままゴミ捨て場で死ぬのが私には似合っているのかもしれない、なんて考えていた。
「ねぇ。お姉さんは捨てられた人間なの?捨てられたお人形なの?」
「…ど、どっちだと思う…?」
「うーん…、お話しできるから人間かな?」
驚いた。いつの間にか目の前に青い傘を差した男の子がじっと私を見ていたことに気づく。錆びた臭い柵越しに話し掛けられた男の子はピカピカしたまだ馴染めていないランドセルを背負っていた。子ども、なんてよくわからない生き物で自分にはあまり縁のなかったこの子の存在に戸惑ってしまう。
「そうだよね。人間か」
心底がっかりする男の子。
「…もし…もし人形だったらどうしてたの?」
自分でも不思議なのだけれど何故か会話を続けてしまった。普段だったら関わりもしないけど、純粋に理由が気になっていたのだと思う。
「お姉さんがお人形さんだったらこっそりおうちに連れて帰ろうと思って」
「? そんなのゴミ捨て場のじゃなくて親に帰って貰えばいいでしょ?」
その時私は至極当たり前な事を言ったと思う。
しかしその台詞に男の子はひどく傷つき悲しそうな顔をした。
「え!?ちょっ…どうしたの?」
「買ってなんか貰えないんだ…」
「え?」
「僕は…僕は男の子だから、可愛いお人形さんを持つのは変なんだって、おかしいんだって」
ぐずぐずと涙と鼻水を流しながら男の子は続ける。
「僕はロボットなんかより青い傘よりズボンより、お人形さんや赤い傘やスカートがいいのに…でもそう言うとお母さんは凄く怒って、ふつうじゃないって、泣いちゃうんだ」
その台詞に私の脳内では過去の記憶が早送りされてるビデオのように映り出された。
ーー性同一性障害。身体と性が異なる人間。
この子は、私と同じで、反対の子だ。
自覚をしたのは小学生高学年の時だと思う。好きな男の子の話が増えていく中自分は同性の可愛い友達に魅かれているのは可笑しい事だと察した。運がいい事に露見する前に自覚したので今でも友達や親とも普通のいい関係は続いている。ただ変だとわかっていたので普通になろうと努力もした。けれど性とは厄介で、身体を繋げても違和感や虚無感しか残らないものだった。
「…ねぇ」
「何?」
「女装して」
「……は?」
「女装してセックスして」
声が震えるのを必死に我慢した。一世一代の懇請だったんだ。彼と付き合って1年、異性だけれどこの人なら一生添い遂げられると思っていたんだ。けれど感情や優しい想いだけでは一向に身体は満たされない。この先何十年と共に生きるのならば私の本当をさらさなければ、と、本音を伝えた結果がゴミ捨て場行きだったので笑ってしまう。私はゴミらしい。普通の人からすればゴミと同じ存在なんだね。
「私もね。君と同じよ」
「え?」
被っていたゴミ袋を取り男の子を真っすぐ見て答えた。
「お姉さんはね、女の人だけどお人形さんや赤い傘やスカートより、ロボットや青い傘やズボンがいいの」
「じゃ、じゃあ…」
「ん?」
「僕も…僕もお姉さんみたいにゴミ捨て場に捨てられちゃうの…?」
男の子は一気に不安な顔をして大粒の涙を流し出した。声も上げず驚いた顔のままあまりにポロポロなくものだから、その純粋さが可愛くて眩しくて。
この子には強く生きて欲しいと願ってしまったんだ。
「あはははは!」
「お、お姉さん?」
「違う違う!君なら大丈夫よ」
久々にお腹の底から声を出して笑ってしまった。私があまりに声を張り上げて笑うものだから、男の子はぴたりと泣き止んで、そしてつられて笑ってくれた。
「…あはは。あ、僕、誰か呼んでくる。お姉さん出してあげなきゃ風邪ひいちゃう」
「待って」
「?」
「…私は、…私はゴミじゃないよね?」
何故こんな事聞いたのだろう。
分からない。けれど、この子からたった一言欲しかったんだ。

「うん。お姉さんはゴミじゃないよ。だって人間なんだもの」


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