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悠さん

人見知りをします。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 日の光を借りて照る大いなる月たらんよりは、自ら光を放つ小さな灯火たれ。

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ごみ溜めのお姫様

18/04/04 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件  閲覧数:241

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あなたはごみ溜めから生まれたの、と朱理さんは言った。
だからあなたは私の子どもなんかじゃない。寄らないで、汚らわしい。ごみはごみらしくしてなさい。それが朱理さんの口癖だった。
「あかりさん」
お母さん、と呼ぶとぶたれるので、朱理さんと呼んでいる。何度も呼ぶとぶたれるので、本当に必要な時だけ話しかけるようにしている。
「…なに」
携帯に視線を落としたままぞんざいに返事をする朱理さん。暗澹とした瞳がわたしを映すことはない。
「おなかすいた」
そう告げると、朱理さんは大きく舌打ちをして湯を沸かす。積み上がったごみを掻き分けて、適当なカップ麺を引き出した。音を立てて形を変えたごみ山から、使用済の割り箸がこぼれていった。
黙々と用意したそれをわたしの前に置き、朱理さんは再び携帯に手に取る。わたしはプラスチック製のフォークを手に取り、椅子によじ登って熱々のそれを頬張った。
ずるずると麺をすする音だけが空しく響くこの部屋が、わたしの世界の全てだった。

太陽が傾いてくると、朱理さんはきれいに化粧をして、きれいな服を着て、お姫様に変身する。
きらきらしている朱理さんを見上げると、汚物を見るような目でわたしを一瞥し、世界の外へ消えていく。いつ帰ってくるのか分からない。明日の朝かもしれないし、明後日の夜かもしれない。わたしにできることは、このごみ溜めで帰りを待つことだけだった。

数ヶ月に一度、朱理さんは酷く酔っ払って帰ってくる。わたしが寝ていようと文字通り叩き起して、何かを叫びながらわたしをぶつ。泣くと更にぶたれるか、押入れに閉じ込められるので、ぎゅっと目を閉じて、ぐっと奥歯を噛みしめて、ひたすら耐えた。
そして最後は「ごめんね、優香」と滅多に口にしないわたしの名前を呼んで、痛いくらいに抱きしめられる。
ぽろぽろと涙をこぼす朱理さんの腕の中は温かかった。
鼻をすする音がやがて寝息に変わり、私も朱理さんに抱かれたまま眠りについた。

目が覚めても、朱理さんはまだ帰っていなかった。デジタル時計の日付を確認する。朱理さんの背中を見送ってから、すでに四日が経過していた。
のどがからからだったので、とりあえず水を飲むことにした。ダンボールの踏み台に乗ってコックをひねる。のどを潤すと、胃が悲痛な泣き声を上げた。
冷蔵庫は勝手に開けるとぶたれるので、部屋の中から口にできるものを探す。といってもこの四日であらかた食べ尽くしてしまったので、朱理さんが開けたポテトチップスの残りかすくらいしか見つけられなかった。
袋についた塩まで舐めとって、水を二杯飲んだ。それでも腹の虫は泣き止まない。何だかあたまもくらくらして、ごみにつまずいて派手にすっ転んだ。頭の辺りに空になったカップ麺が転がってきて、体の上には色とりどりの広告が降ってきた。
ごみ溜めに埋もれるようにして、わたしは天井を見つめる。
ああ、おなかすいたなあ。あかりさんまだかなあ。
さっき目が覚めたばかりなのに、ゆっくりとまぶたが下りてくる。
またよっぱらってかえってこないかなあ。
ぎゅってしてほしいなあ。
記憶の中の朱理さんの温もりを抱きしめながら、わたしはそっと意識を手放した。


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