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若早称平さん

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四次元ゴミ箱

18/04/04 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:268

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 多分きっかけは先日の落雷だ。実際雷くらいのエネルギーでこんなことが起こるわけがないのはごりごりの私立文系の俺でもわかることだが、他に思い当たるふしがないのだから仕方ない。レンタルしてきたDVDを観ながら飲み干したビールの缶をゴミ箱に放り投げると、缶は音もなく吸い込まれた。


 大学進学で上京し、一人暮らしを始めた時に買ったなんの変哲もない我が家のゴミ箱はある日突然ブラックホールになった。白い円柱を覗くと底には暗黒が渦巻いている。よく理科の教科書や宇宙の不思議みたいな本に載っている典型的なブラックホールだ。初見から直接触ることは躊躇われたし、何と言ってもゴミ箱なのだからと鼻をかんだティッシュからコンビニ弁当の容器、ペットボトルや空き缶なども捨ててみた。そのどれもが小さなブラックホールに吸い込まれていった。
 次にゴミ箱の容量を越える大きなものはどうなるのだろうと実験してみた。近所のコンビニからわざわざ大きめの段ボール箱をもらってきた。ゴミ箱の三倍ほどの段ボール箱は角が底に触れた瞬間スルスルとブラックホールに吸い込まれていった。その様子はドラえもんの四次元ポケットに似ていたので、俺はこいつを「四次元ゴミ箱」と命名した。
 どういう理屈なのかはわからないが、便利この上ないのでそこはあまり気にしないことにした。ただ、最初に直接触らなかったのは我ながらファインプレーだ。そんなことをしていたらどうなってたかわかったもんじゃない。


 スマホを弄りながら大学の講義を受けていると横でテレビが壊れたという話をしているのが聞こえた。新しいのに買い替えたけどリサイクル料が高いし、いっそどこかに不法投棄してこようかという内容のあまりよろしくない会話だった。
「あの、よかったら俺が格安で引き取りましょうか?」
 一応断っておくが俺はこの瞬間まで四次元ゴミ箱で金儲けをしようだなんて思ってもいなかった。しかし少し考えただけでもこんなに美味しいビジネスはないんじゃないかと思う。なにせこの世には粗大ゴミから産廃、はては核廃棄物まで捨てるのに困るゴミで溢れている。それを際限なく処理できる我が家のゴミ箱はまさに夢のゴミ箱だ。

 口コミだけにも関わらず俺のゴミ回収は予想を上回る売り上げになった。バイトを辞め、仕送りを止めても生活に支障が出なくなった頃、俺が一年生の時から憧れていた柿崎先輩に呼び出された。

「君の噂を聞いてね、お願いがあるの」
 大学の近くの喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら先輩は言った。なんでも先輩がバイトをしているレンタルビデオ店に連日ゴミを不法投棄されて困っているということだった。早速向った個人経営の小さなビデオ店には「先輩の頼みならただでいいですよ」と言ったことを後悔しそうなほどのゴミが山のように積み上げられていた。
「どうやって入れてるのかわからないけど返却ボックスの中に入ってるのよ」
 犯人は防犯カメラにも写らないようにさほど大きくもないボックスの中にゴミを捨てるらしい。最近では粗大ゴミも入っていることがあって、店長さんが苦労して取り出したそうだ。
「これは酷いですね。でも俺の部屋まで運んでもらえればあとはなんとかしますよ」
 店長さんが借りてきた軽トラに三人で手分けしてゴミを乗せる。時々見かける俺の個人情報の書かれた郵便物をこっそりと隠しながら。

 考えてみればわかることだったのかもしれない。ブラックホールと対をなすホワイトホールの存在なんて私立文系の俺だって知っている。入り口があるなら出口もあるのは必然だった。部屋の中を埋め尽くすゴミを前に、自分の浅はかな考えを悔いた。しばらく腕組みしたまま眺めていたがそれでゴミがなくなるわけもない。横になるのが精一杯のスペースで渋々ゴミの分別を始めた。


 結局全てのゴミを処分するのに一週間かかった。お金も稼いだ金額の倍近くかかった。今俺の部屋には二つのゴミ箱がある。DVDを観ながら食べていた菓子パンを捨てるのは四次元ゴミ箱の隣の黒いゴミ箱だ。観終わったDVDを返却袋に入れてブラックホールに投げ込む。これで先輩のバイト先へ返却完了だ。
 夢のゴミ箱からは大きくスケールダウンしてしまったが、便利は便利だし、この件をきっかけに先輩ともお近づきになれたので、これはこれでいいかなと思っている。


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