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紅茶愛好家さん

他所でも別名義にて活動中です。 作品書いては毎度家族に読んでもらってます。面白い作品が書きたいなあと試行錯誤中。作風は真面目なのからふざけたのまで色々書こうと思っています。

性別 女性
将来の夢 長生き。これ大事。
座右の銘 温故知新

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捨てる紙あれば拾う神あり

18/04/03 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 紅茶愛好家 閲覧数:253

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オレは嬉々としていた。
月に一度の不燃物の日がやってきた。部屋の中を見回すとごみになるはずだった本棚、ごみになるはずだったアンティーク調の椅子、ごみになるはずだった大きなごみ箱、生活はごみになるはずだった物で満たされている。左程汚れていないし十分使える物ばかりだ。ごみ貰いを始めたのは二年程前、きっかけは実家の母だった。
「捨てようとしてたの貰ってきちゃった」
使い古されたスライド式収納棚を磨き上げながら嬉しそうに言った。ごみの持ち帰りは窃盗罪になる。でもごみになる前の、捨てる前の物ならセーフということらしい。大学に進学し一人暮らしを始めるにあたり持ち金の少なかったオレは迷わずごみ拾いならぬごみ貰いを始めた。
一番最初に見つけたのはちゃぶ台だった。本当はガラスのテーブルが欲しかった。けれど状態も良いし、何より出しに来たおじいさんの人柄も良かったので迷わず譲り受けた。おじいさんは「貰ってくれる人が居るならありがたいよ」とたいそう喜んでくれた。
次に貰ったのはスツールだった。出しに来たのは派手な髪色の女性、赤いスツールは布の部分が色あせており、古ぼけていた。「こんなのが欲しいの?」と女性は気持ち悪そうな顔をした。確かに年季が入っていてダニがいそうと言えばいそうだ。けれど見方を変えればアンティーク、「古いものが好きなんです」と言い譲ってもらった。
その次に貰ったものは確か玄関マットだった。これは欲しいかどうか微妙なところだったが、物貰い初心者のオレは貰える物は貰っておけとの精神で譲り受けた。けれど一か月ほど玄関に敷いていたのだが柄が好みでない上に裏を向けると赤カビの跡がひどくておまけに匂うため、さすがに置いておくのが不快になり翌月捨てた。
後の順番は覚えていない。月を追うごとにごみの家財道具は増え、統一感の無い部屋が完成されていった。左右で柄の違うカーテン、お揃いじゃないダイニングの椅子、毛の勢いのない絨毯。一度サークルの友達を呼んだのだが、玄関に入るなり皆の顔が引きつった。
「これって何ハウス?」誰かが囁く。
ごみハウスだ。
「金なくて実家から持ってきたもんばっかなんだ」
とウソをつくと皆「ああ、ね」と頷いた。その日はタコ焼きパーティをしたのだが、実はこのタコ焼き器も貰い物だ。皆ご満悦で嬉しそうに頬張ってくれた。一人が「オレもタコ焼き器買おうかな」と言うのでオレはシンクの下から秘蔵っ子を引っ張り出した。同じタコ焼き器三個、「やるよ」と言うと皆が「何でそんなに持ってるんだよ!」と言うので酔った勢いで正直に「ごみ置き場で貰ったんだ」と話す。皆、「へええ、すげえ」と驚くので調子に乗ってその他もろもろのごみ貰いの話をすると次第に友達たちが居心地悪そうな顔に変わっていった。その日以降友達はオレの部屋に来なくなった。

大学三年になり待望の彼女が出来た。吉住舞という特に目立った長所もないが気の利く優しい女性だ。付き合い始めて三カ月、舞の誕生日がやって来た。オレはプレゼントを見繕うことにした、ごみ置き場で。授業をサボり気合いを入れて早朝からごみ置き場でスタンバイする。中々、目ぼしい物がやって来ない。しつこくうろついているとごみ当番の住民が話しかけてきた。
「キミかい? ごみ拾いしてるって大学生は」
「ごみ拾いじゃなくて、ごみ貰いです」
「どっちでも一緒だよ。キミのやってることは犯罪だ」
「いいえ、違います。所有者の方に許可を貰って持っていくんだから犯罪じゃありません」
「無理やり持ってかれたって人もいるんだ。今すぐ止めないと警察を呼ぶよ」
「ええ、結構ですよ。呼んで下さい」
オレには自信があった。三年かけて培ってきたごみ貰いとしてのプライドだ。到着した警察官にオレはしつこく注意されたが逮捕はされなかった。これすなわちオレの行動が過ちではないことの証。警察官の注意の最中、若い女性が本を纏めて持ってきた。すぐに近寄り、欲しい旨を伝えると「ええ構いませんよ」と譲ってくれた。たじろぐ警察官を置き去りにしてオレはごみ置き場を後にした。完全な勝利だった。
九冊の本の中からオレは『アリスの農場』という本を選んだ。本当は九冊全部プレゼントしても良かったが、一冊の方が有難味があるし、さすがに状態の悪い本までもとなると怪しまれる。一番状態が良くて面白かったそれを百円均一で買ってきたラッピング袋に入れ渡すことにした。
舞は大変喜んでくれた。欲しかった本だと言って抱きしめた。文学少女である彼女はそれを後生大事にすると嬉しそうにしていた。

月日は過ぎてオレと舞は社会人になり付き合い始めてから五年の時を経て結婚することになった。今日は両親同士が初対面する日だ。俺の実家では母が赤飯を焚いて待っている。
えっ、おもてなし用座布団? もちろん貰ってきましたよ。ごみ置き場で。


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