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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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将来の夢 積極的安楽死法案
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匂いの正体

18/04/02 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:72

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 僕とその友人は同じ大学に通っているのだけれど、両者とも、大別すれば田舎から都会に引っ越してきた身だった。大別すれば、なので、さしてド田舎でも大都会でもない。むろん利便性や施設に差は歴然とある、通っている大学がまさにそれだ。
 さて、こうした点で境遇がほぼ同一である友人が、こんな疑問を口にしだした。
「こっちってゴミの匂いするよな」
「それだけだと伝わらない。何時の、どこの話?」
 普段から彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけれど、まずは話を聞いてみることにした。
「いやだからさ、こっちに引っ越してきてからずっと、どこでもゴミの匂いするんだよ」
「ゴミの近くにいるから?」
「ゴミは確かに近くにあるが……」
 それならゴミの匂いがしないほうがおかしい。彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、そんなことで不満っぽいことを漏らされたゴミにも同情を禁じ得ない。
 しかしよくよく聞いてみると、本当にゴミの傍にいてゴミの匂いを感じているという話ではないと理解できた。
 要は、田舎は空気や水が綺麗で、都会は汚い、その結果の一つとして、都会にいる現在は「ゴミの匂いがする」とのことだった。
 否定しないではない。空気や水の美味しさは明確に違う。田舎を知らず都会にしか暮らしたことのない人は気づかないが――もしくは田舎に行った際感動すら覚えるが、全然違う。むろん美味しさは相対的なものでもあるから、田舎出身者からすれば、都会の空気・水の悪さにショックを受けることになる。
 そのショックは、僕にもあった。都会に来る機会は数度しかなかったが、その度に感じたものだ。
 今はすっかり慣れてしまったけれど、彼は今でも感じ続けているらしい。それも、「なんとなく不味い、臭い」ではなく「ゴミの匂いがする」らしい。
「ゴミといっても色々あると思うんだけど?」
「強いていえば生ゴミに近いかな。酸っぱい感じ」
 場所を限定すればそういうところもある。しかし都会全般がそうだというのは言い過ぎに思える。
「じゃあ君は大学にいる間も家にいる間も、ずっと生ゴミの匂いがしているの?」
「ああ。さすがに耐性はできて我慢できるが、不快な匂い自体は続いているぞ。俺は慣れないのかもしれないなあ」
 それは難儀な性質だ。僕は慣れてしまったから、今更苦痛は感じない。
 彼は嘘など吐かないから――彼のバカさ加減に同情を禁じ得ない身としてはまったく褒めていない――、本当にゴミの匂いがしているのだろう。
 しかし疑問は色々とある。
 臭いのはいいとして、ゴミの匂いだろうか。ゴミはもちろんあるけれど、清掃は田舎に比べても頻繁にされており、観光客がゴミ由来で減少したとの話も聞かない。
 また都会人は臭くなどない。人に限らず物でも何でもそうだ。むしろ田舎のほうが、田舎特有の匂いを持っていることがある。
「確認するけど、その匂いは、何時どこにいてもしていて、ゴミの匂いなんだね」
「ああ」
「うーん」
 これまで出た材料で真相を推察することは可能だろうか。考えを巡らせてみても、思いつかない。彼のバカさ加減には同情を禁じ得ない僕だけれど、彼が特に苦しんで相談してきたでもないこの件を考えていることに自分で同情を禁じ得ない。
 もう諦めようかと思ったその時、ふと閃くことがあった。そんなものだ。彼のバカさ加減に同情を禁じ得ない僕だからこそ、思いついたことだ。
「もしかして君って、こっち越して来てから、生活変わった?」
「そりゃ変わったさ。褒められたものじゃないな、一人暮らしさせると堕落する人間の典型だ」
 君はそういう奴だったね。彼の的確な自己評価のおかげで、ようやく推測が可能になった。
「何時でもどこでもゴミの匂いがして、匂いには慣れてしまう僕はよく君と一緒にいるから慣れてしまった」
「ん?」
 まだ察していない彼に答えを告げる。
「君自身がゴミの匂いするようになったんじゃないかな」
 彼のバカさ加減には同情を禁じ得なかったけれど、罵倒文句は「バカ」から「ゴミ」に変更したほうがいいかもしれない。
「なるほど! つまり俺がゴミだったのか!」
「そうなるね」
 ならないけど、面白いので同意しておいた。
「じゃあ早く何とかしないと」
 そうだね、ゴミの匂いがしないように――
「俺ももう分別のつく大人だ。俺がどのゴミに分別されるか把握しておかないといけない。生ゴミ説は根拠が薄過ぎるし」
「……あー、うん」
 彼のバカさ加減には同情を禁じ得ないけど、今の発言を自虐抜きに言えるところは尊敬してもいい。

(了)


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