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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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全然クールじゃない

18/04/01 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:166

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 復讐の想いがいつしか彼女を生かす原動力となり、両手両足に嵌めた枷は、そう簡単に外れることはない。

 だから、一人の少女が親殺しの犯人を丸一年探し、いつか犯人を自らの手で殺してやろうという思考に塗れていたのに。その犯人が事故で死んだとわかったとき、彼女はこれから人生をどう歩んでいこうかと思い悩む。

「幸せになったらいいじゃないか」
「勝手なこと言わないでよ! 私が今日まで奴を殺すために、どれだけ貴方に訓練してもらったことか」
「きみには人殺しの才能がまるでなかったね」
「初めに言ったはずだけど。私は殺し屋になりたいんじゃない。奴に復讐さえできれば、それでよかった」
「じゃあ、双方の意見は最初から食い違っている。ぼくは仕事のパートナーがほしかったんだ」
 ぼくが顔を顰めて言うと、きみは一度視線を伏せ、再びぼくの両眼を見た。
「じゃあ、これから貴方の元で、正式に殺し屋として働くわよ」
「無理だって。きみは全然クールじゃない。感情が豊かすぎるのは殺し屋の欠点だ。しかもきみ、今まで小動物の一匹も殺せなかっただろう」
「それは……」
「ということで、ここできみとぼくはお別れというわけだ」

 ーーぼくときみが出会ったのは一年前。出会ったというよりどこで嗅ぎつけたのか、きみがぼくの家に訪れたのがすべての始まりだった。

 きみの自宅に強盗が入り、犯人に両親を殺され、クローゼットに隠れていたきみは間一髪で命は助かるけれど。同時にきみは孤独となり、失意の底に叩き落され、警察に助けを請うという考えを飛び越えてきみは、絶対に犯人を“殺してやる”という感情の沼に溺れたのだ。

「料理と家事全般を頼んだ。それらを引き受けてくれるのなら、ぼくの技術をきみに伝授しよう」
 人の命を奪うこと以外なにもできないぼくの部屋は。大量の不要物が捨ててある場所に、わざわざ奇特な建築家が部屋を作ったのかと問いたくなるほど、絶望的な状況だったのだ。

「それで住まわせてくれるのなら、お安い御用だわ」
 正直、一緒に住むことまでは了承した覚えはなかったが。ぼくが“仕事”へ行っている間に彼女は大量のゴミたちをねじ伏せ、温かい料理を作って待っていてくれたので、こいつ“使えるな”と、すぐにぼくは思考を切り替えたのだ。

 きみと過ごした一年間を振り返ると、やはりどれだけ殺しの技術を注ぎ込んでも、筋が悪かった。ナイフの扱いもままならないし、格闘技経験もないきみのヘナチョコパンチには、いつも笑わされたよ。
「本当にそんなので、奴を殺せると思っているのか?」
「はい、すみません」

 ただ訓練が終わると立場は逆転。今度はぼくが怒られる番に回ったのだ。
「ゴミはきちんとゴミ箱に。脱いだ服は洗濯機に。貴方、子どもですか?」
「ぼくは殺し以外のことは、からっきし......」
「はい、言い訳しない!」

 ......実はきみには黙っていたけれど。
 ぼくもきみと同様に両親を幼い頃に殺され、そこから天涯孤独を貫いてきたのだ。
 だからきみに、少しばかり昔の自分の姿を重ねていた部分があったのかもしれない。
 ただ、ぼくの場合は親の仇討ちを自らの手で果たし、もう決して下ろせない業を抱え、感情の乏しい殺戮マシーンになってしまったけれど。

 きみは美味しい料理を作れるし、家事も完璧にこなせるし、なによりぼくに感情を取り戻させてくれた。人を笑わせることのできるきみは、自分も一緒に笑い、強く生きていってほしいと、そうぼくに願わせたのだ。

 ーーぼくがきみに別れを告げて一日が経過し、きみは少ない荷物をまとめると、ぼくに言った。
「今までありがとう。じゃあ、行くね」
「あぁ」

 ぼくは笑みの一つも零すことなく、ただ冷静に返事をした。
 きみの荷物に昨夜、少しばかりだけどお金を忍ばせておいた。反対にお礼を言いたいのはぼくだったけれど、殺し屋は過度に感情を出してはいけない。だからそれが、感謝の気持ちだと思って受け取ってほしい。

 ......だけど扉が閉められた途端に、猛烈な喪失感がぼくへと一斉に襲いかかってきた。

 そしてすぐに、玄関のドアノブが回される。
「ごめん、渡しそびれた!」再び扉が開かれた。「貴方って、本当に料理も家事もできないから。ノートに……え?」
「……」
 最悪だ。自分の感情を必死に抑え込んでいたはずなのに、恥ずかしい顔を見られた。まさか戻ってくるとはーー。
「......ふふ。貴方も私と同じく、全然クールじゃないね」
 
 そう言ってきみも、少し笑みを見せた後に涙を零した。ぼくは歯止めが利かなくなり、子どもみたいに泣きじゃくった。やはりきみは、復讐の枷なんかに囚われず、幸せになったらいい。その隣にぼくはいないけれど。この先もずっと幸せであればいいと。そう願ってやまないのだ。


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