華満零さん

発表は初めてです…。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 自分に限界をつくるな

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18/03/30 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 華満零 閲覧数:309

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行き過ぎの友情なのか、それとも、抱いてはいけなかった恋情なのか。今となってはそれすらも、曖昧。

「今夜12時に」
一言だけ書かれたメール。今日は水曜日。一週間の中で、私が一番嫌いな曜日。
吸いこんだ煙草の煙と共に、口から溜息が零れた。腰かけていたベッドから立ち上がり、ドレッサーの前に座る。
腰まで伸びたブラウンの髪の毛を入念に梳かし、慣れた手つきで顔に化粧を施していく。
今日のために用意していたワンピースを身につけた。鏡に映る自分自身が変わったことを確認してコートを羽織り、家を出た。
数年前までは、スニーカーしか履いたことのなかった足も、すっかりハイヒールに慣れた。鮮やかな赤色のハイヒール。
この2年で、私は偽物になり替わってしまった。

12時15分前。都内にある某高級ホテル。いつものように私は室内にあるソファに座り、足を組んだ。そして癖になってしまった煙草に火をつける。昔はあんなに嫌いだったのに。自嘲気味に笑いながら、窓の外を見ていた。
高速道路に沿ってきらきらと輝くナトリウムライト。けれど、何もときめかない。心は、彼女が死んだあの時、一緒に死んだ。
2年前までの私なら、何も知らなかった、素のままの私なら。きっと目の中に光を映してはしゃいでいたのかもしれない。
だけど、偽物の私には、輝きが眩しくて痛いだけ。自分の汚い部分までが照らされてしまうような気がして。彼女が今の私を見たら、なんと言うだろう。
随分と感傷的な夜。また自嘲した。
その時、物音がしてドアが開いた。もう振り向かなくても、相手なんてわかっている。
今日の飼い主。そして、この世で一番憎い相手。
こいつは、私のことなんて覚えてもいないのだろうけれど。こいつのせいで死んだ、私の親友のことも。
最期の言葉が、耳の奥に蘇る。
「あたし…もう立ち直れない」
電話越しに聴いたあの声を、もう聴くことはできない。最期の声くらい、直接聞きたかったのに。
必死に走ったけれど、間に合わなかった。部屋で無残に横たわる彼女を見て、現実を受け入れることを拒否した。震える手で、まだ温かさの残る彼女の体に触れ、もう目を開けてくれないことを悟った。
彼女が純粋すぎた、と言われればそれまでかもしれない。私は、彼女の遺書ですべてを知った。
彼女は、遺書の最後に
「親友の愛海だからこそ、何も言えなかった。軽蔑されたくなかったの。ごめんね」
と記していた。彼女が、どんな気持ちでこの言葉を書いたのか。私には、引き止められなかったのか。聞くべき相手を失ってしまってはもう、分からない。
私は、哀しみを封印し、妖艶な笑みを浮かべ、振り返った。
「こんばんは」
「いつも早いな」
「あなたこそ」
私は立ち上がると、彼に近づき、触れた。
近づいてくる唇を、いつものように受け入れ、応えた。

彼を満足させた後、私はシャワーを浴びて着替えた。
2年間、この日の為に、私は憎いやつに抱かれ続けてきたのだ。
自分が穢れていくのを悟りながら、それでも私は。
この日の為に、私は、ワインを用意していた。
あと、非合法取引の証拠が入ったUSB。内部資料を逢瀬に持ち込むこと自体隙だらけなのだけれど、それだけ懐に入り込んでいる、ということ。もうすでにマスコミにはリーク済みで、明日の日付で報道してほしいと、依頼していた。もちろん、内部告発として。
バスルームから奴が出てきた。
「ワイン、冷やしてあるの、どう?」
「さすが気が利くな。良い趣味してる」
コルクがいい音を立てて抜かれる。
血のように鮮やかな赤が、グラスに注がれていく。
「乾杯」
グラスを軽く合わせる。私は笑みを崩さず、奴をじっと見つめていた。
一口、二口飲んだところで奴はグラスを取り落とし、床にガラスの破片とワインが砕け散った。散乱した破片が間接照明に反射してきらきらと光った。
恐怖と苦しみの中に疑問符を貼りつけ、奴は私に問いかけた。
「お前は…なに…者?」
「自分の胸に手を当てて考えてほしいものだわ」
そして花瓶に生けてあった深紅の薔薇の花びらを引きちぎって、散らした。
サイドテーブルには遺書代わりのUSB。
「さようなら」
奴の骸に挨拶をして、私は部屋を後にした。

海の見える大きな丘。私と彼女の思い出の場所。
彼女が好きだったカスミソウの花束を、頂上に立つ一本の木の根元に置いた。枝を大きく広げたその木は、静かに葉を揺らしていた。
「やっと、おわったの」
そして私は小瓶に入った2粒の白い錠剤を手のひらに取り出して口に含んだ。
また、会えるかな。会えたら、今度こそ何でも言える仲になろうね。私は、あなたを軽蔑なんてしない。純粋に、一途に。あなたは何も悪くない。
だんだんと幕が下りてゆく視界の中で、そんなことを想った。
子守唄は波の音。かつて二人で聴いた、大好きな音だった。


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