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あおいさん

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薬に支配された空

18/03/29 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 あおい 閲覧数:239

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海風が彼女に強く当たる。長いロングの髪は風になびいて、ふっくらとした彼女の唇にぴったりとくっついて逃さない。少し困ったようにその髪を手ではらい、クスリと笑った。黒髪に少し茶の混ざったような艶やかな髪の毛は、太陽に当たってキラキラと光り、誰が見ても「美」そのものである。
「ここに帰るの何年ぶりかなぁ」
透き通るような声でそうつぶやいたが、その声は船のエンジンの音にかきけされ、誰の耳にも聞こえることはない。
「まだ許してくれないの…?」
彼女は眉をヘの字にして空に向かって話しかけた。彼女はどの顔をしても美しい。そんな少し曇った表情が先程まで晴れていた空を巻き込み、一瞬で空全体を曇りにした。
「………ねぇ、…答えてよ…」
彼女の頬を伝った涙の雫が海の上に落ちた瞬間曇った空は彼女に同情するように1つ、また1つと雨を降らした。彼女はまるで空を支配しているみたいだ。

彼女が話しかけている相手はもちろん、「空」ではない。「僕」である。彼女の罪は僕の人生を変えた。その罪を本来なら彼女が話すべきである。しかし彼女は語ることができない。その理由をまた後でお話ししようと思う。とまぁそんなことだから仕方がない。僕が話すことにしよう。

彼女が罪を犯したのは2年前。まだ僕は学生だった。高校2年生、青春の真最中である。とはいってもイケメンとはほど遠い顔で何かに熱心になっていたわけではなく、青春とは言えなかったのだが。本土から船で少し離れた島に住んでいた僕は1つしかない学校に片道自転車で一時間かけて登校していた。彼女と初めて出会ったのは大分前で学校が1つということもあり、小学校のときから知っていた。いわゆる同級生というやつだ。ただ重度の人見知りだった僕はまったくコミュニケーション能力はなく、一人で読書をする毎日を送っていた。そのせいか、高校生になってもなお、一学年たったの30人だったのにも関わらず、言葉を交わしたことのある生徒は5人ほどである。その5人の中に彼女が含まれているといったらほとんどの人は驚くであろう。それもそのはず、彼女は島一の美女として名が知れていたからである。その美しさは島以外にも伝わり、芸能事務所からわざわざ勧誘にくるくらいであったからだ。
島の男達は彼女を自分のものにしようと必死だった。僕もその一人である。彼女の美貌に惚れなかった男はいない。島の他の女の人がかわいそうになるくらいみんな彼女に夢中だった。
人見知りだった僕も彼女にだけは必死に話しかけた。何を話しても彼女はうんうんと頷くだけで決して自分から話を広げようとはしなかったが、かすかな手応えは感じていた。そんなある日、彼女がいきなり僕の家に訪ねてきたのだ。僕は舞い上がった。
「ねぇ、お願いがあるの。あなたにしか頼めないの。」
これほど言葉をたくみに操るひとはいただろうか、あとで考えたら恐ろしくなった。ここがすべての始まりである。
「明日の朝、わたしの家まで来てほしいの、そこで一時間ほど待っていてほしいの。なにがあっても離れないでね。」
そして僕を優しく抱き締めた。

僕の鼓動は次第に早くなり、彼女の耳まで聞こえたのではないかというほど大きな音でなりはじめた。それに気づいたのだろうか彼女はクスリと笑い、よろしくねと言うと去っていった。

そして「明日」を迎えた。僕は彼女の家に向かい、一時間ほどその場に滞在していた。何事もなかったものだから後で彼女に事情を聞こうと僕が立ち去ろうとした瞬間後ろから爆発音が聞こえたのだ。
爆風によって倒れ、意識を失った僕が目を覚ました場所は警察の中の病院だった。目の前にはスーツを着た男が二人。
「お前がやったんだろ?訳を話してもらおうか。」
長々とした取り調べは僕を狂わせた。同時に彼女が犯人であるということもはっきりした。僕は騙されたのだ。薬のように中毒になっていた彼女に裏切られた絶望と先の見えない将来に失望し、僕は刑務所の中で首をつった。僕は自ら命を絶ったのだ。

こんな理由で空になった僕をみかねた神様は僕に能力を与えてくれた。復讐という名の能力を。だから彼女の言葉によって殺された僕は、彼女がもう2度と罪を犯さないよう、言葉を奪うという罰を与えた。そして彼女の声は自然に溶け込んで人には聞こえなくなった。だから彼女はもう2度と人と会話をすることはできない。これが今読んでいる君に彼女が話せない理由だよ。

ああ、こう話しているうちにどうやら島に着いたようだ。
「ねぇ!久しぶ……」
船から島に下り立った彼女は友達であろうという人に話しかけた。だが彼女に気づく者はいなかった。
彼女はため息をついて悲しそうにうつむいた。だが、その友達は彼女がいることに気づかないのではない。

彼女の命を奪い永遠にさまよわせる。これが僕が与えた彼女への二つ目の復讐だ。


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