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桐生 舞都さん

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配達ミス

18/03/29 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 桐生 舞都 閲覧数:221

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昼寝をしていると、玄関のチャイムが鳴った。

「――宅配便です。ハンコお願いします」

どうやら、宅配便のお兄さんが荷物を届けに来たようだ。

わたしは重いからだをなんとか起こす。

ソファーで寝た後に目を覚ますと、正面の壁に飾られたたくさんのオブジェにどうしても目がいく。
動物の骨で作ったペンダントや剥製など、海外の変な土産物が好きなあの人の趣味は最後までよく分からなかった。

彼のニオイがまだ残る賃貸アパートの部屋。
汗の香りとタバコの香り。
男もののシャンプーがまだ残っている。そろそろ捨てないと。
冷凍庫には、彼が食べ残していったものがまだ入っていたっけ。

妊娠したばかりのわたしは、目覚めの気だるさと面倒さに、これもそのせいだろうか、と思ってため息をついた。

なんとか自分を奮起させて玄関まで出ると、大きな箱を両手に抱えた宅配のお兄さんが立っていた。

なんだろうと思い、段ボールの上に貼ってある伝票を見る。鳥の名前の運送会社だ。

荷物の種類を書く欄を見ると、「商品名:プレゼント」と乱暴な字で殴り書きされている。

懸賞には応募してないし、誕生日はずっと先なのだけど……

依頼主の欄には何も書かれていない。

変に思って、送り先の名前を見ると、わたしの名前では無い。

それはわたしのアパートとよく似た住所だった。この番地、ああ、これは確か……

わたしはお兄さんに指摘する。

「ああ、この住所、隣のアパートですよ?」

「あっ! すみません」

指摘すると、お兄さんは慌てたように頭を下げ、荷物を持ったままドアを閉めようとする。やっぱり、よく似た住所を間違えたのだろう。

なんだか損した気分だ。
今日の配達員はまだ新しい人なのだろうか。

ドアの前でモタモタするお兄さんに背を向け、わたしが部屋に戻ろうとすると、

――ガサリ。ガサガサ。

突然、紙のこすれるようなかすかな音が背後から聞こえてきた。

まるで何かが動いているようなその音に、わたしは気づき、そして振り返る。

あの段ボールだ。
くぐもった音は段ボールから聞こえてくる。

出ていくお兄さんは、箱の中のわずかな異音に気がつかない。

――あのプレゼントの中身はいったい?

そんな当たり前の疑問がようやく頭をよぎる。

その時、わたしは見た。
彼が下から重そうに抱える段ボール。
箱の側面に開けられた、取っ手の穴。
その片方の穴から、何かがわたしを見ていた。

ぎょろりとした目玉がちらつき、白く光った。

段ボールと目が合い、わたしは思わず後ずさる。

ドアが閉まる直前、一瞬、緑と茶色の混じった泥のような手が穴の中から伸びて、わたしに向けて手を伸ばした。

――手には、ブヨブヨした水掻きがついていた。



わたしはそこで目が覚めた。さっきのあれは、ぜんぶ夢だったのか。

起きたばかりのわたしは、お腹をさすりながら、夢の意味について考える。

あの夢は何かの暗示だという気がした。
なんだか妙な現実感があったからだ。

さっきの配達のことをよく思い出してみる。

――鳥の名前の宅配便が運んできた、住所間違いのプレゼント?

「あっ!」思い至ったわたしは立ち上がり、その鳥の名前を叫ぶ。

「コウノトリ!」

わたしはすぐに薬局へ行くと、検査薬を買い、反応の有無を調べた。

結果は陰性。

わたしの妊娠は、思い違いだった。

一瞬残念だったという気持ちが頭をよぎるが、いいや、あれで良かったんだと身震いをする。

泥水の色をした、水掻きの着いた手。箱の中で生きている。

あんな恐ろしいプレゼントは、誰の手にも届かないでほしいから。
――というのは建前で。

別れた彼が、何事も無かったかのように次の女と結婚するということを、わたしは風の噂で聞いていた。

だから相手の女に、せめてもの呪い。

冷凍庫には、彼の食べ残した腕がまだ残っている。
あの女へのプレゼントは、わたしの元彼という快楽殺人犯の遺伝子だ。


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