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まきのでらさん

某老舗同人集団所属。 キャリアだけは無駄に長いです。 よろしくお願いします。

性別 男性
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我らホシ追う復讐者

18/03/28 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 まきのでら 閲覧数:105

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『ホシを捕らえた』
 ナイフを片手に森を彷徨っていた私のトランシーバーが、雑音まじりにそう告げた。
『例の廃屋に集合せよ』
 無機質なその声は淡々と続き、私は疲弊した足を引きずるようにして廃屋へと向かった。
 ホシは子供ばかりを狙う卑劣な連続殺人鬼だった。警察は頼りにならず、いたずらにヤツを泳がせては犠牲者を増やしていた。
 ある時、しびれを切らした犠牲者の親の一人が立ち上がった。
「こうなったら私の手で犯人を捕らえ、処刑してやる!」
 その掲げられた正義の旗にすがりつくようにして一人、また一人と遺族が加わり、遂には一個の組織を形成するまでになった。
 そして今夜、点々と移動を繰り返して辿り着いたこの町で、ホシを捕らえた。私はひとつ前に殺された子供の親だ。可愛い盛りの五歳の息子を殺された。怒りと哀しみ、深い絶望に支配されたが、この組織に入って大分とマシになった。
 今度の犠牲者の親も、少しは楽になってくれると良いのだが。
 森の奥、私たちが活動拠点としていたその廃屋は、ところどころが朽ち、螺旋を描く蔦がのたうつ、いかにもな場所だった。
 中に入ると他のメンバーは既に揃っていた。九人にもなる男たちは一様に黒いコートを羽織り、誰も彼もが神妙な顔をしていた。が、一人だけ肩を大きく震わせている。今回の犠牲者の父親だった。まだ若いその顔は哀しみのあまり青白いが、やがては復讐の赤に染まるのだろう。
私もそうだったと他のメンバーから聞いている。
 捕らえられたホシは椅子に縛り付けられていた。口に猿ぐつわをハメられ、もはや喚くことも出来ない。
 そのホシは無精髭を生やした初老の男だった。

「さあ、始めよう。憎き悪魔に裁きを」
「裁きを」「裁きを」「裁きを」「裁きを」「裁きを」「裁きを」「裁きを」「裁きを」
 
 発起人である男の言葉を合図にして、私を含む他の八人が一斉に続いた。そして、いよいよ始まる。
 一人ずつ、一回ずつ。
 縛られた男に制裁を加えていく。躊躇いも戸惑いも許されない。それが我々のルールだった。
 殴る、蹴る、突く、刺す、切る、決して致命傷は与えず少しずつ、まるで彫刻を彫るような丁寧さで、ホシを痛めつけていく。
 始めは大きく唸っていたホシだが、段々と声を出す気力も無くなっていく。犠牲者の親は当然のようにいきり立っていた。
 私たちが諌めて、少しずつの制裁を徹底させる。その顔はやはり、赤く紅潮していた。
 ホシは確実に弱っていった。やがてピクリとも動かなくなる。そこで発起人が父親の前に歩み寄る。そして小さく耳打ちをした。これも私は経験済みだ。トドメを刺せ、というのである。
 父親は頷くと、ゆっくりと虫の息であるホシの前へと進み、手に持ったナイフで、最後の制裁を加えた。
 父親は肩で大きく息を繰り返す。おやらく人生で初めて、人を殺したのだ。その時、まるで見計らったかのように、発起人が声を発した、
「しまった……彼は、違う」
 その一言に他のメンバーが一斉にどよめく。
「違う?」「人違い?」「違う?」「人違い?」「……また?」
 どよめきは波紋のように空間へと広がる。若い父親は呆気に取られていた。少し前の私のように。
「どうやらミスをしたらしい。今、キミが殺した男はキミの息子を殺した犯人ではなかったようだ」
「え、え、そんな……」
 若い父親は動揺を隠せない。
「しかし、安心したまえ。この男も人殺しには違いない。子供を手に掛ける悪魔の一匹で間違いないのだ」
 そう言うと発起人は死体の懐に手を入れて二枚の写真を取り出した。それは幼い少女だった。
「これが証拠だ。コイツは悪魔だ」
 発起人は吐き捨てると父親の肩を抱き、囁く。
「ホシはおそらく次の獲物を求めて町を移ったのだ。我々も追わねばならない。キミも、一緒に来てくれるね?」
 若い父親は再び青白くなった顔で首を縦に振った。それしか彼に選択肢はなかった。こうして、組織に十人目のメンバーが加わった。彼もまた、この終わらない復讐の輪の中に組み込まれたのだ。
 
 私は発起人がまともだとも正しいとも思っていない。
 
 おそらく彼は自分の復讐を終わらせたくないのだろう。犯人を探し続けることでしか生きる意味を見い出せないのだ。
 それは、他のメンバーもまた同じだった。だから我々十人のうち子供の仇を討てた者は、未だに一人もいない。もちろん、私を含めて。 了


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