1. トップページ
  2. 音するくしゃみに君がいて

むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

投稿済みの作品

0

音するくしゃみに君がいて

18/03/24 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:196

この作品を評価する

 森のギリギリ陽の光が魔を避ける内側めいっぱい、境界内の限界地点に僕の巣がある。寝ぼけて朽ち忘れた老木の洞から掘り進めた僕の巣穴は、地下へと続く。蓋をしてしまえば地下のねぐらで聴こえてくるのは集めた落ち葉のすれる音。集めた木の実を齧る音。雨の水分が滲み込んでくる気配の音。そして、僕の心臓の音、だけになるだろうはずだったんだけど。
「へっぷしょん、もーね、大変だったよ。月が盗まれちゃったんだからさー」
「えっくしょん、いんやさ、月泥棒の目的はなんのこっちゃない森の財宝だったのよ。長老が差し出して、はい解決よ」
「あっくし、だってそりゃ、月よ? 森の小さなものたちにとっちゃ、夜の支えだもの。事実、あの夜小さな仲間の絶命する声でようやく長老動いたんだからね。挙動がとろくさいってんだよ」
「っぷしょん、んー、森のお宝より命の方が輝く可能性を秘めているって、気が付けたんだからそこはね、え、あ、ごめんよ。あんたには、耳心地良くないか。ごめん。ほーら、こんな時のためにお土産を今あげます。へっへへ。タイミングが笑っちゃうだろう。うん。今年はヨナキタケの収穫が捗々しくてね」 
 このくしゃみの音だ。
 僕が逃げるべきだった音。
 僕が憎むはずだった音。
 僕を、森のギリギリに追いやり、ヨナキタケの収穫にすら参加できなくした音。
 僕が、洞を堀り、地中に潜って掻き出した音。
「うっぷしゅ、ひーっくし、あっくちん。へくちん」
「ふーん、ヨナキタケをお土産になんて狡いな君は。夜泣けなくなるじゃないか」  
「泣けない代わりに何か他のことをしなさいよ、ばっくしょん」
「他の何か、かぁ。そりゃーもう、一個だな」 
「なに? へくしょーん、うーうー、っくしょん」
「どーすりゃ、僕を追い出した奴らに仕返ししてやれるか、それを考えるのさ。泣けないなら、それを考える」
「うわっくしょん。まーずかったかー。それ、返して。えっくし、えくし」
「もらったものは、僕の物さ」
 僕は生きていただけだ。与えられた命に答えを探す不毛はおっぽって、毎日を髭の向くまま腹の鳴るままちんちんのむず痒くなるままに任せて、したいことの後ろをついてくように、生きてただけさ。
「はくしゅん」
 でも、あのくしゃみの音が、僕のしたいことを遮って跳ね返しだした。
「へっくし」
「あれ、どーしたもんか、あんたの側にいるとくしゃみが止まらんよ」
「あらま、あたしもそうよ、顔の内らっ側が痒くてたまらないよ」
「何が原因だろうと思ってたんだ、あんただったのか」
「あっくしゅん」
「ひっくしゅん、ちょっと、離れておくれよ」
「っくし、もう少し」
「はーーーっくしゅん、もっと、もっと」 
 もっと、もっと、で、森のギリギリ。僕は月がなくても死にはしないが、一人だと夜に泣くんだぜ。
「必要なものは、はーっくしゅ」
「そうだ、取りにおいで。曜日と時間を決めよう。集会所に置いておくよ。べっくし」
 僕は、一体全体どうしたってんだろう。くしゃみの音の数が束になって僕を消しにかかって、僕は夜に巣で泣くぐらいしかできなくなった。
「ヒドイもんだね、えっくしん。へへへ、つめてーやね。くちん」
 くしゃみの音が、一個だけ、残って僕を涙から掬いあげる。
「だってー、あたしの一番の自慢なのよ。くしゃみする様が可愛いってさー、あっくちん、べっくしん」
 おかげで、僕はまだ仕返しを考えることができる。一人じゃないから。
「確かに、君はくしゃみをしている時が一番輝いて見えるよ」
「でしょ、でしょ、でーーっくしゅん」
 僕の仕返しが月泥棒を凌駕して、森ごと焼き尽くす業火になっても、僕には一個だけのくしゃみが残るだろう。
「仕返し、どんなのか、今度教えてね。はくしょん」
「いつもそうだね。最後に、ノーマルなくしゃみ」
「へへへ、じゃーね。またね、それまで元気でね。はくしょん」

 僕の望まなかった異常な体質は、意味があるのか、神様のうっかりか、ぐるぐる巡って尻尾と口が消化で繋がったとばかり思っていたけど、まだ外に答えが用意されていたとはね。
「うっくしょん。だからね、あたしだけ、その流行り病にかかってないのさ。もう、みんなウンウン唸ってるよ」
「ざまあみろ」
「だからね、帰って来てくれって、そりゃもうみんな七転八倒。くしゃみの方がマシだってね。ひっくしょい」
「どんな考えた仕返しより、これ以上のものがあるかよ」
「ねぇ、うっくし」
「ん」
「どっかで聞いたよ。最大の報復とは、許すことであるってさ、はーっくしゅ、おっくしゅ」
「君がいたんだ。僕には」
「言うと思った。だから、あたしはあんたに託すことにした。はくしょん。じゃーね、また来る」
 また、一人だ。
 僕は、僕を許せるだろうか。くしゃみの音が、僕の内側から束になって聴こえた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン