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キップルさん

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復讐の接吻

18/03/20 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:2件 キップル 閲覧数:571

時空モノガタリからの選評

 高級官僚であろう「俺」の冷酷さと計算高さが過不足なくて(といったら変ですが)、妻に対する殺害計画を愛人に実行させるという冷酷な動機に説得力を持たせているようなところがうまいなあと思いました。すでに機能しない人間関係ならば、離れるのが互いのためなのに、互いに不幸になる道を選んでしまうのは共依存的盲目の愛着故なのでしょうか。
妻の視点で語られる段落は、前段落との前後関係を錯覚させるミスリードになっていて、ラストに意外性を持たせていると思います。

時空モノガタリK

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「あなた、行ってらっしゃい…。」
「ああ、行ってくる。」

 俺は、7年連れ添った妻の美紀に手を振った。もう二度とこいつの顔を見ることもないだろうと内心思った。目鼻立ちは昔と変わらず整っていたが、髪や肌にはもう艶がない。美紀の性格はお見通しで、これ以上発見も望めなかった。飽きていた。そろそろ生活を一新する必要があった。

 俺は出張へ行くため、新幹線に乗った。閑散とした車内で椅子を倒し、目を閉じた。

 女は己の欲求を満たす道具に過ぎない。主に性欲のはけ口と家政婦代わり。気に入らないことがあったら、殴って言うことを聞かせればいい。十分な経済的豊かさと少しの優しさを見せれば、女は離れない。まったく単純な生き物だ。

「やっほー、今どこ?」

 携帯に知奈美からメッセージが届いた。知奈美は2年前からの不倫相手で、IT企業で受付嬢をしている。愛嬌があって、笑うとくっきりしたえくぼができる。あまり知的ではないが、そこが勘の鋭い妻と違って気に入っていた。たまにどんくささに苛立ち、手を上げてしまうが、それも愛嬌だ。

「栃木に入った。」
「そっか、出張お疲れ様!」
「なに、地方のアホ役人どもにちょっと法律を教えてやるだけさ。」
「官僚様は、北に南に忙しいね。」
「まったくだ。そんなことより、あれは今日だろ。準備はできてるのか。」
「うん、バッチリだよ。でも、すごくドキドキしてる。」
「面倒を掛けるな。」
「大丈夫。これが終わったら楽になれるんだもん!」

 知奈美はこれから大仕事を行なう。一人で家にいる妻の美紀を殺すのだ。知奈美と一緒になるには妻が邪魔だった。しかし、浮気で離婚し、不倫相手と結ばれては世間体が悪い。それに多額の慰謝料が必要になる。さりとて、自分の手は汚したくない。だから知奈美がやる。自然なことで、何も強要などしていない。

「ああ、楽しみにしてるよ。明日、また会おう。」

俺はあくびしながらメッセージを送り、再び目を閉じて横になった。

「誰に向かって口聞いてんだ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい…。」

 私は自宅のリビングで、先日の夫とのやりとりを思い出していた。夫は2年ほど前から休日に行き先を告げずに出かけるようになった。最近その頻度が多いので、行き先を尋ねたら激昂し、私のお腹を殴った。彼は決して顔を殴らない。妻の顔に傷があると、周囲に不審がられるからだ。

 しばらく私をサンドバッグにすると、彼は人が変わったように謝る。猫なで声で「本当にすまない。心を入れ替えるから」と言って、涙まで流す。それを見ると、何度騙されても許してしまう。この人、根は優しいんだ。不器用なこの人のそばにいてあげなきゃと使命さえ感じていた。でも、それももう限界。ふと、私の人生って何だろうと考えると涙が止まらなくなった。ピンポーン。その時、チャイムが鳴った。

「美紀さん、やっと会えましたね。」

涙を拭いて玄関の戸を開けると、初めて見る女性がいた。彼女は私を見ると、にっこり微笑んだ。頬にくっきりしたえくぼがある可愛らしい女性だった。

…。

 一泊の出張を終えた俺は夜遅く家に帰った。玄関の戸を開けると中は真っ暗だった。妻亡き家には知奈美が待っているはずだが、妙だと思った。リビング、キッチンと順に探し、寝室のドアを開けると、

「おかえりなさい。」

ベッドに知奈美が座っていた。暗くて表情がよく分からない。

「どうしたんだ、明かりも消したまま。」
「だって私、人を殺したんだよ。部屋を明るくして普通になんてできない。」
「そうか、よくやった。」

俺は知奈美の隣に座って肩を抱き寄せた。

「死体はどうした?」
「山に埋めた。ちゃんとあそこまで行ったから誰にも見つからないと思う。」

事前に死体の隠し場所も打ち合わせておいた。俺は、素直で、行動力があり、どうしようもなく馬鹿なこの女が愛おしくなった。

 両腕で知奈美を力強く抱いた。すると急に知奈美が唇を重ねてきた。俺は目を閉じて貪った。知奈美の唇はみずみずしい果実のようだった。

 急に手首に違和感を覚えた。腕が動かせない。ほぼ同時に、グッと首が締め付けられ、息ができなくなった。みるみる視野が狭くなり、意識が薄らいでいく。何が起きたかまったく分からない。

 かろうじて目を開けると、手首に手錠が付けられていた。知奈美は俺の手を強く押さえている。なぜ。そして、横目で化粧台の鏡を見ると、妻の美紀が縄で俺の首を絞めていた。サッと血の気が引くのを感じた。次の瞬間、意識が飛んだ。俺は二度と目を覚ますことがなかった。

「全部知ってたの。浮気のことも、私を殺そうとしてたことも。さよなら愛しい人。」

 美紀は動かなくなった夫に優しくキスをした。大仕事をやり終えた美紀と知奈美は固く抱き合い、大声で泣いた。


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このストーリーに関するコメント

18/03/21 文月めぐ

拝読いたしました。
まさに「復讐」というテーマにふさわしい作品だと思いました。

18/03/21 キップル

コメントありがとうございます!

いかに夫を嫌な男に仕上げるか知恵を絞りました。

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