1. トップページ
  2. 怨念復讐丸

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

0

怨念復讐丸

18/03/18 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:133

この作品を評価する

「そりゃそんな奇怪な覆面レスラーがみんなのみまもるリングに突然あがってきたときは、誰もが息をのんで驚いたさ。当時マスクマンといえばきまって、外人レスラーときまっていたからね。いや、それが日本人かどうかも、いまだに謎だが。
 さてその復讐怨念丸――まったくおどろおどろしいネーミングもいいとこだが、そのまたマスクの恐ろしいこと。耳まで裂けた口は口裂け女もかたなしだ。目の穴からのぞく双眸はまさに復讐の鬼と化した人間の、どすぐろい怒りと恨みにぎらついていたね。前置きもなくリング上にたちはだかった復習丸の姿をはじめてまのあたりにした観客たちは、それまでの試合でかなりエキサイトしていたのが、たちまち水を打ったように静まりかえってしまった。
 謎のマスクマンはリングアナウンスのマイクをもぎとるなり、地の底から響いてくるような低音で、四方をとりまく客たちに語りかけた。
『俺は復讐をとげるためにやってきた。恋人を殺されたあげく、その犯人に警察におれがやったと通報され、それ以来俺のはてしない逃亡の日々がはじまった。その間、泥水をすすり、ネズミを喰い、ゴキブリさえ口にしながら、なんとか命をたもちつづけた。それもこれも、俺をこんな目にあわせたやつをとらえ、ずたずたに引き裂くためだ。俺は、ある町で何人もの暴漢をあっというまに叩きのめした男とめぐりあった。きけばこれまでストリートファイトで負けたことがなく、地下格闘技界の常勝チャンピォンだという。俺はその男に弟子入りし、それから毎日、血がにじむような努力を重ねながら必殺技を身につけていった。地下格闘技にも出場し、どんなにピンチになっても、復讐の相手の顔をおもいだすだけで、俺は反撃にでて勝利をかちとることができた。
 俺は戦いをくりひろげるうちに、いろんな対戦相手からかきあつめた情報により、とうとう奴のことをかぎあてた。奴もまた、俺同様、戦う人間になっていた。俺同様マスクをかぶり、各地のリングにあがってファイトをくりひろげていた。そいつがいま、俺がいるリングにあがっていることがわかった。俺はなにをさておいても、奴をこの手で血祭にあげる。今夜はそのためにここにやってきたんだ』
 その名指しされたマスクマンというのが、外人レスラーのなかでも、得意技は反則だというぐらいとびぬけて悪辣な奴で、しかもかなりの凄技が使いこなせて、これまで対戦相手を何人も病院送りにしている男だった。マイク片手に復讐丸が大声でそいつの名を呼ぶと、なんと控室からそいつがのっそりあらわれて、復讐丸のいるリングにたったから大変だ、客たちはそれこそ、いまに殺し合いがはじまるとばかり、かたずをのんでリング上をみまもったものだ……」
 熱心に耳をかたむける孫たちをまえに、そこでおじいさんは口をとざした。いつつづきを話してくれるのだろうと、期待に胸をふくらます子供たちは、とうとうこらえきれなくなって、。
「怨念復讐丸はそれからどうなったの」
「復讐ははたしたのかい」
「おじいさん、なんとかいってよ」
 するとおじいさんはとつぜん、歯をむきだして笑いだした。
「なにがおかしいんだい」
 おじいさんは笑いの発作がおさまるのをまって、目の前のソファにならぶ3人の孫たちをながめた。
「おまえたちがいまの話を本気で信じているように、当時のプロレスファンもまた、あたまからまにうけて、いつ復讐丸が恋人の仇をはらすのだろうと、それからもテレビにくぎ付けになったものだ。いまのプロレスファンなら、それらの話がみなブッカーといって、いわばショービジネスの一環だということぐらい、だれでもしっている。だれが警察から追われてにげている人間を、リングにあげたりするものかね。けれども昔の人間は、このわしもふくめてみな、その話を信じ、リングで闘いをくりひろげる復讐丸のファイトぶりを、真剣にみまもったんだ」
「なあんだ、そうか」
「ある意味みんな純真で、いい時代だったんだな。そうおもわないかい、おまえたち」
「怨念復讐丸はそれから、どうなったの」
「ずっと復讐をとげるためのプロレスを潮時がくるまでつづけてから、潔く引退したよ」
「さいごまでマスクはつけていたの」
「うん」
「素顔はわからなかったんだ」
「謎のまま、消えていったね」
「それもブッカーってやつなの」
「プロに徹していたんだよ」
「なんだか急に、プロレスをやりたくなった」
 孫たちがソファからたちあがり、隣の部屋でプロレスまがいの技をかけあって遊びはじめるのを、おじいさんは目をほそめてながめだした。彼の頭上にかけられた額には、顔をかたどった記念のマスクがガラスをはめておさめられていた。耳元まで裂けた口、ぽっかりあいた目の穴――
 当時の観客たちの、じぶんにむけられるはりつめたまなざしが、おじいさんの胸によみがえってきた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン