葉月三十さん

葉月三十で「はづきみそ」と読みます。 日本文化と漫画が大好き。 もそもそと書いていこうと思います。

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将来の夢
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恋心

18/03/13 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 葉月三十 閲覧数:245

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 思いもよらない言葉だったのだろう、Z子は目を真ん丸にして聞き返した。
「A男が私を好き?」
「何度も言わせるなよ」
「だって、私たちは単なる幼馴染みで、だから、だから――」
 Z子からしてみれば寝耳に水、到底予想も出来ない言葉だったのだ。
 何しろZ子は男勝りで気が強く、幼馴染みであるA男を泣かせたことも数知れず。そんなA男が自分を好いているなど、よもや微塵も思いもしなかったのだ。
 だが反面、嬉しさもあった。なぜなら、Z子のこうしたA男への態度――泣かせてしまうこと等は、裏を返せば好意以外のなにものでもなかった。好きな子ほどいじめたくなる、そんな子供じみた性格を、Z子自身も理解していた。
「で、Z子。付き合うの? 付き合わねえの?」
「うん、あのね」
 いつもからは想像もできないしおらしい声、照れた表情。A男はその後の言葉を忘れてしまう。もとより、
「私も、A男が好き、だな」
 もとよりZ子の言葉によって、A男が本当に言いたかった言葉など遮られてしまったのだ。罪悪感という壁に。

 付き合い始めたのが大学二年の時で、それから四年、二人の仲は続いていた。とは言え、二人は元々幼馴染みであったから、お互いのことはよく知っている。故に、今までと付き合い始めてからでたいして関係は変わらなかった。
「なあZ子」
「なによA男。かしこまっちゃって」
 不意に、Z子の名前を呼んだA男の表情は明るいものではない。
 お互いの部屋に上がるのももう何回目かも分からない。独り暮らしのA男の部屋は散らかっている。
「俺、Z子に謝んなきゃならないことがある」
 A男の肩に力が入る。すうっと息を吸い込んだのと同時、Z子が先に言葉にした。
「もしかして私、フラれるのかな?」
「え」
「だっておかしいよね。A男が私を好きなんて」
 読まれていた、とA男は二の句が告げなくなった。
 A男はZ子が嫌いだった。真っ直ぐで気が強くて、自分に正論ばかりぶつけてくるZ子が。
 A男が悩んでいるとき、失恋したとき、男友達と火遊びをしたとき。何かにつけてA男を諌めるZ子が癪だった。
 だからA男は、あの日Z子に嘘の告白をした。些細な嫌がらせ、仕返し。
 告白にうろたえるZ子に、「好きなわけないだろ!」、そう言って馬鹿にするはずだった。
 それがどうだ、今の今まで恋人として一緒に過ごして。
「そうだよ、ほんとはお前を騙すために告白した」
「知ってたよ」
「は……?」
「私ね、A男が好きだからね。いつ言い出すのかって、嘘だよって言われるまでは気づかないふりしようって思ってたんだ」
 どこまでも健気な女だ。だがそんなことはあの日、告白した日に分かっていたこと。Z子をあの日ほど女らしいと思ったことはなかった。だから、あの告白が嘘だと言えなくなった。そして――
「悪い、Z子。あの時の告白は、嘘だ」
「だから、知ってるって」
 いいや、お前は何も分かっちゃいない。
「だから、改めて告白する。俺と付き合ってください!」
 嘘だと言えなくなった。次のデートで言おう、次こそ、明日こそ、来週こそ。それが四年も続いてしまった。そしてA男は、気づいてしまった。なぜZ子が癪に障るのか、そんなの分かりきったことだった。A男もまた、Z子を好いていた、ただそれだけのことなのだ。


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