いっきさん

公務員獣医師として働くかたわら、サイトを中心に創作に励んでいます。

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家守

18/03/11 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 いっき 閲覧数:299

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ある夏の日の夕方。ドア横の電灯に目をやった。光に虫が集まり、それをヤモリが狙っている。僕はそっと手をヤモリに近付けた。
僕は無類の爬虫類好きだ。家では沢山の爬虫類を飼育していて、こいつもコレクションに加えようと思った。
手をヤモリに被せようとした、丁度その時。
「こら、何をしておる!」
後ろから声が聞こえた。アパートの管理人だ。
僕はこの管理人、苦手だ。ヤモリのような大きな目をギョロつかせ、よく分からないことを言う。
「いえ、僕は何も……」
僕は、トボけた。しかし、管理人には通用しない。
「嘘つけ。ヤモリに手を被せて、虐めようとしていたではないか!」
「いえ、虐めようではなく、部屋で飼おうと……」
すると、管理人はヤモリのような目ん玉をぐるぐる回した。
「な……何ということを。あんなに狭いケージにヤモリを閉じ込めようとしていたのか!」
「いえ、まぁ……」
「お前! ヤモリとは、家を守ると書いて『家守』というのだ。黒い邪気からこのアパートを守ってくれておるのだぞ! 閉じ込めようとは何たることだ!」
管理人は両手で頭を抱え込んだ。
いや、何も、そんなワケ分からないことを言って、そこまでのショックを受けなくても……。そう思ったが、この管理人には通用しない。
「お前! この先、決してそんな悪しき考えを起こさないことを誓え! 今すぐ、誓え!」
「あ……はい、誓います」
僕はその迫力に圧倒され、口だけで誓った。

「一体、何だったんだろう」
部屋で落ち着いた僕は呟く。ワケが分からない人はいるもんだが、ウチの場合、アパートの管理人がそれだから厄介だ。
今日も部屋のペット達に餌をやる。イシガメやアカミミガメ、ニホントカゲ。それぞれに餌を与える。
餌を目の前に置くと、一瞬の間を置き、一気にパクつく。その様子が可愛い。
こうして爬虫類のペットを見ていると、やはりヤモリも一緒に飼育したくなる。ヤモリは、どのようにして餌を食べるのだろう。それに、管理人のあのギョロ目玉は気持ち悪いが、ヤモリのくりっとした目は大変可愛かった。僕はどうしてもヤモリを手に入れて飼育したくなった。

次の日の朝。新聞を取りにドアを開け、何気なく電灯の辺りを見た。すると、何と、電灯の横にヤモリがいるではないか。瞼のないヤモリだが、じっと動かず、眠っているようだ。僕はそっと手を近付け……一思いに捕まえた。
やった!ついに、こいつも我が家のペットの一員だ。僕は、逸る気持ちを抑えてヤモリをケージに入れた。

その晩。寝ている僕は、鳴き声で目が覚めた。
『キュッ、キュッ、キュッ』という声が響いている。声の主は、どうやらヤモリのようだった。
何だろう?
僕がケージを覗こうとした、その瞬間!
「何故、誓いを破ったぁ!?」
管理人の顔が飛び出してきた。
「ギャアア!」
僕は腰が抜けた。管理人の顔はギョロっとした目玉で怨めしそうに僕を睨む。
「お前は誓いを破った。このアパートは、もう何者からも守られないと思え」
「あ……あ……」
管理人の顔が消えると同時に、僕は気を失った。

翌日。目が覚めた僕はホッと胸を撫で下ろした。
夢か……。きっと、あの管理人のワケの分からない誓いが強く印象に残っているから、あんなワケの分からない悪夢を見たのだろう。
気持ちを切り替えようと、冷たい水で顔を洗った。
しかし、ここでふと、ヤモリのケージが気になった。新顔のヤモリ、どうなっているだろう。
ケージを見てみると……焦った。ヤモリは腹を見せてひっくり返っていたのだ。
僕はケージからヤモリを取り出した。
「死んでる……」
何ということだ。非常に嫌な予感がした。

その時。マンションの管理人室の方からゴタゴタと音が聞こえた。部屋を出てそちらへ向かってみると……管理人室に慌ただしく人が出入りしていた。
「昨夜、管理人さん、亡くなったんだってよ」
顔見知りの隣人に告げられた。
「嘘……昨夜って、いつくらい?」
「真夜中の二時くらいだって話だな」
真夜中の二時くらい……丁度、僕が鳴き声で目が覚めたくらいの時間だ。僕は、背筋が寒くなるのを感じた。

管理人の通夜は管理人室で行われているようだ。しかし、僕は出席しない。
精神的なショックで、それどころではなかった。震える手で、部屋のペット達に餌をやる。
「よし……カメック。美味いだろう」
ペットが餌を食べるのを見ることで、辛うじて僕は安定できた。
しかし……灰色の煙が僕の前に現れた。パチパチという音もする。
はっとしてそちらを見ると……アパートの火災で燃え移ったのか、部屋が燃えていたのだ。
「うわぁ!」
ドアへ駆け寄ろうとしたその瞬間!
「お前が家守を殺したのだ! 家と共に死を以って償えぇ!」
ギョロっと目玉で刺すように睨む顔。腰を抜かした僕へ向かって、燃え盛る柱が倒れ込んだ。


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