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バーターの逆襲

18/03/11 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 らっかさん 閲覧数:231

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 私は朝から不機嫌だった。正確に言うと、不機嫌になったのは、昨日の晩。三月で、お世話になった個別指導塾の
講師が辞めるというのを聞いたからだ。

 私学の名門校の授業についていけず、成績も中の下。このままでは大学なんて夢のまた夢。こんなことなら、
公立の高校でのんびりしたかったのだが、なぜか塾長が無理矢理私学を薦めて、なぜか入ってしまったという感じ。
そんな私の唯一の救いが、塾で英語を教えてくれる安喜先生だった。

 分からないところまで戻って教えてくれるし、愚痴も聞いてくれる。厳しくされることもあったが、塾長以下、
他の講師が私にきつくあたるのに、安喜先生だけはそうは対応しなかった。そんな救いである安喜先生を、あと
一年で大学受験というこの時期に失うことが、本当に辛く、哀しく、腹立たしく思っていたのだ。

 とは言え、自分にはどうすることも出来ない。別の塾で先生が教えるのならそちらへ移ることも考えるが、
その気もないらしいのだ。ずっともどかしい想いが続く中、私は意を決することにする。

 たまたま塾長が用事で塾におらず、安喜先生だけが教室にいて、他の講師も生徒もいないタイミングがあった
ので、辞める理由や今後の動向を知りたい旨を、先生に聞いてみた。

「世の中には知らなくていいこともありますよ」

 そう答える先生だったが、しつこく迫ったのが功を奏して、ようやく語ってくれた。


 話は一年後に飛ぶ。

 私は有名な国立大学の入学式に臨んでいた。およそ、一年前の私では無理な大学。しかも、同じ高校で同じ塾、
成績優秀の幼なじみの加代子よりもいい大学だった。

 思えばこの一年は、死にものぐるいだった。自堕落だった生活を改め、勉強に邁進した。結果、センター試験
では英語と国語でほぼ満点を取るまでに至った。

「入学おめでとう」

 入学式の後に電話した先は、元講師の安喜先生だった。

「あの時、あの話を聞かなければ、私は合格はおろか、卒業さえ危なかったと思うの。本当にありがとう
 ございました」

 何度も私は感謝の言葉を述べた。


 話は一年前に戻る。

「そんなに聞きたいのなら言うけど、心の準備はしてね」

 そう言うと、先生はいろいろ話し出した。まとめるとこんな感じだ。

 中学時代も、加代子と私とでは加代子の方が成績が上だった。加代子は家が裕福ではないので公立を考えて
いたが、塾長はどうしても私学の名門校に彼女を行かせたかった。そうすれば、彼女の将来が開けるというのが、
表向きの理由だが、実際は違った。その名門校からいい生徒がほしいと頼まれていたのだ。

 そこで塾長は、加代子と親を説得してそこへ行かせる見返りとして、加代子に奨学金を必ず出すことと、
もう一人生徒を合格させることをその名門校に頼んだのである。それが、私なのだ。つまり私は、入れる
はずもない名門校に、加代子の抱き合わせ−つまりバーター−で合格したのだ。そのことは、本人以外は
皆知っていたが、親にも講師にも口止めさせていたらしい。

 なぜ私がこの私学に入れたのか不思議だったのだが、ようやくそれが分かった。学校とすれば金が取れる。
塾としては実績が上がる。いわゆるwin win なのだ。

 でも、講師には負担がかかる。最初から学校についていけるはずもない生徒に、無理から教えなければ
ならないのだから、たまったものじゃない。安喜先生には、それが耐えられなかったのだという。辞める
要因の一つだったそうだ。


 そんな安喜先生の想いも受けて、私はこの一年邁進したのだ。バーターに使われた恨みを晴らしたかったし、
加代子にも勝ちたかった。結果は大逆転。塾長も表向きは喜んでいたが、ずいぶん苦々しい感じでいた
ようだ。何せ、バーターが勝ってしまったわけだから。

 その後、安喜先生は個人で塾を創設した。私は時々そこでバイト講師をしている。本当の実力をつけさせて、
バーターじゃなく正々堂々と受験に挑めるようにという安喜先生の想いを胸にかみしめ、生徒と丁々発止の
日々である。


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