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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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復讐のお味はいかが?

18/03/06 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:430

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 からんころんとドアベルが鳴れば、どんな作業をしていても入口に目を向けて笑顔で「いらっしゃいませ」と挨拶する。それは五年前、この「つけ麺藤吉」を開いた時からずっと続けていることだ。そう、たとえ相手がどんなに無礼なお客様であっても。

 「いらっしゃいませ」入口に笑顔を向けても、その男性二人組は僕の言葉など全く聞こえていないかのように、会話を続けている。そんなことは日常茶飯事だ。だけど、三十代くらいの二人組はどかっとカウンター席に陣取ると、ほかに客がいないのをいいことに、持っていたキャリーバッグを適当に投げて置いている。いや、そこに置かれると、ほかにお客様が入ってきたとき、邪魔になるんだけどな……。遅い時間だからと言って、だれも来ないとは限らないじゃないか、と言いたくなるのをぐっとこらえる。
 カウンター四席、テーブル席が四席という狭い店。常連さんは皆、気を使って席を詰めてくれたり、相席したりしてくれる。本当にありがたいことだ。だが、この二人は、キャリーバッグを持っている、見るからに観光客。この店も初めてだろう。
 広島は何といっても観光客が多い。そして、僕のこの店は、有名な観光地から近いところにある。ネットでも「おいしい広島のつけ麺が食べられる店」として紹介されてから、お客様は増えた。それはとてもうれしいことなのだが――。
 「水」と短い一言が聞こえ、思考が中断された。
 「お冷はセルフサービスとなっております」
 隣でキュウリを千切りしていた妻の朋子がすかさず対応してくれた。しかし、今日のお客様は手ごわかった。「は?」と眉をひそめた挙句、今度は煙草を取り出した。
 「あ、うち、店内は禁煙となっておりま」
 「誰も客がいないからいいだろ」
 僕の言葉が終わらないうちに、ライターで火をつける二人。たまにいるのだ、こういう厄介な人が。
 「一辛、二つ」
 注文を通されれば、仕方なく手を動かすしかなくなってしまった。うちのつけ麺は辛さを二十段階から選べるようになっている。観光客だから、辛さの様子見だろう。
 同年代くらいの人間だと思うけど、非常識だなあ、という怒りを必死に抑え込む。
 朋子がキャベツをさっとゆで、水、しょうゆ、砂糖などを混ぜたたれを器に入れる。僕はその間に麺をゆで、ざるにあげたら流水で締める。
 皿に麺を盛り、千切りのキュウリと人参、ゆでたキャベツを乗せ、ゆでたまごを添える。最後にネギを散らせば完成だ。あとはたれにラー油とごま油を入れて「一辛」の辛さにすれば完璧なのだが。
 「冬弥くん、辛くしてやろうよ、思い切り」僕に顔を寄せ、にやりと笑っている朋子。ああ、いやな予感がする。
 朋子が入れたラー油で、たれが真っ赤に染まった。それを「お待たせしました。たっぷりたれをつけてくださいね」とお客様の目の前に差し出した。言われた通り、麺をどばっと浸す二人――。
 「辛い!」
 叫ぶ二人組に慌てて水を差しだした。ぺこぺこと頭を下げ、水をごくごくと一息に飲んでゆく。
 「舐めてるんじゃないわよ」凄みのある声を出す朋子に、先ほどまで赤かった顔を真っ青にさせる男たち。
 一辛のつけだれを用意すると、二人はいそいそと食事を終え、そそくさと帰っていった。しかし、最後に謝ることは忘れていなかった。
 「いい気味だこと」薄笑いをしている朋子は何食わぬ顔で食器を片づけている。「ちょっとした復讐よ。ほんのちょっぴり」
 中辛くらいかな、とつぶやいているのが聞こえたので、いや、激辛だよ、と心の中で突っ込む。
 そのとき、入口でからんころんという音がした。僕たちは先ほどのことなど何もなかったかのように、笑顔で「いらっしゃいませ」とお客様を迎え入れた。


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このストーリーに関するコメント

18/03/27 吉岡 幸一

拝読させていただきました。
つけ麺を思わず食べたくなりました。もちろん激辛でではないつけ麺ですが・・・。とても読みやすく感情移入しやすい文体でした。素敵なお話しをありがとうございます。

18/04/02 霜月秋介

文月めぐ様、拝読しました。
相手は辛さのレベルを知らないので、文句のつけようがないですね(笑)面白かったです。私もいま空腹で、つけ麺が食べたくなってきました。一辛ひとつ!

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