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トミザワ 鏡太朗さん

しいたけの事について真剣に考えている

性別 男性
将来の夢 物を書いてお金になればいいな
座右の銘 最悪死ぬだけ!!!

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犬のおうち

18/03/05 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 トミザワ 鏡太朗 閲覧数:185

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お母さん、あなたの不幸を僕は
一番近くで見守り続けるよ



昔からヒステリックだった《お母さん》
僕の背中をライターで炙るのが生き甲斐の《お母さん》
パチンコで負けると、般若みたいな顔で叩く《お母さん》
少しでも僕の足音がうるさいとすぐに犬のおうちに閉じ込めた《お母さん》

「あんたは動物以下なんだから狭いケージに入ってなさいよ。最近ますますアイツに顔が似てきて、気持ち悪いったらありゃしないのよ!」

あいつって誰だろう。
物心ついたときにはもう居なかった《お父さん》のことかなぁ。

犬のおうちから見る景色は、蛍光灯の色をワントーン暗くした。
リビングに掛けてある時計の針の速度が、ひどくゆっくりに見える。
一生ここから出してやるものか、とでも言っているように、なかなか時を進めてはくれない。
おうちから出て駆け回っている茶色の物体は、一体どんな気持ちで僕を見ているんだろう。
小さい頃生き物図鑑で読んだことがある。犬は家族の序列を理解する生き物だと。
それが本当だとしたら、きっと僕は最下層なんだ。
あぁ、あの犬の名前はなんだっけなぁ…



僕はいつの間にか、《お母さん》の旋毛が見えるようになった。
犬はもう、いない。
犬のおうちは汚れたままリビングの窓際に放置されている。
屈んで、くぐってみようとしたけれど、どうしても腰の辺りで引っ掛かってしまう。
もう犬のおうちに入れない事を知ったとき、僕は大人になったのだと理解した。自由になったのだと。

そうか、僕はずっと不幸だったんだ。
クラスメイトに嫌われるのは、僕が馬鹿だからだと思ってた。
《お母さん》が冷たいのは、僕が悪い子だからだと思ってた。
誰も助けてくれないのは、みんな《お母さん》のことが大好きだからだと思ってた。

どうして気付いてしまったんだろう?
気付いたから、今が不幸だと思ってしまう。
誰かと比べてしまう。
クリスマスにゲームを買ってもらってた光希君、毎日綺麗な服を身に纏っていた恵里佳ちゃん、運動会にはとびきりのご馳走を頬張っていた栄太郎君。
そして、いつも僕よりもいい服を着て、僕よりもいいものを食べて、無邪気に走り回っていたあの茶色い物体…
みんなが幸せを噛み締めているときに、いつも僕はこの中にいたんだ…

棒切れのように細い自分の腕と、朽ちた犬のおうちを交互に見て、僕は久しぶりに泣いた。

―ガチャン
その時、玄関のドアが開く音がした。
「何突っ立って泣いてんのよ気色悪い。クリーニングに出してた私のコート、ちゃんと取りに行ったんでしょうね?」





「それで、気が付いたら数十発殴っていたと?」
裁判官が僕に問いかける
「はい、たぶんそれくらいは…本当に無意識でした」


血だらけになって横たわる《お母さん》を見て、僕は心底後悔した。
ライターで背中を炙ってやればよかった。
リモコンで頭を殴り付けてやればよかった。
せっかく自分の不幸に気付けたのに、この人はそのどれも味わうことのないまま、あっさり死んでしまった。



「その後、被害者をどうしましたか?」
分かっているであろう事を、どうして僕の口から言わせようとするのか、不思議でならない。
「犬のおうちに、入れました。僕が《お母さん》に出来る、たった一つの復讐でした。」



ねぇ、《お母さん》
僕の名前、覚えてる?
僕は何も覚えていないんだ。
《お母さん》の笑った顔も、手料理の味も、飼っていた犬の名前も。
でも、いいんだ。
だって《お母さん》はもう二度と、笑うことも泣くこともできないんだから。
そんなあなたの不幸を、僕は一番近くで見守っているよ。
あの、犬のおうちに入れて。





―数年後


「ハッピー!おいで!」

「わんわん!」

医療少年院を6年で出た僕は、この家に戻ってきた。
忌まわしい記憶は消えないけれど、その昔優しかったおばあちゃんが残してくれた、唯一の帰る家だから。

僕の周りをぐるぐる駆け回る小さな犬、今の僕の家族だ。
従順で、無償の愛と言うものを体で教えてくれるこの犬に、僕はハッピーと名付けた

「こらこらハッピーそっちは駄目だよ。そんな汚いもの触ったら病気になっちゃうぞ」
犬のおうちの中にある《お母さん》の位牌を蹴り倒すハッピーを見て思った。

僕は今、幸せだと



あなたは、一生犬のおうちから出られないよ
でも、仕方ないよね?
これからも僕のことを見守っていてね
犬のおうちの中で


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