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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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骨正月

12/12/24 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1573

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 煮立ってきた鍋をかき回すと、からからと哀しい音がした。
 湯気を立てるのは酒粕、野菜、大豆。そして随分軽くなった骨。今日一月二十日は骨正月、二十日正月といって、古来から正月の祝い収めにあたる日だという。地域によっては正月のご馳走や餅をこの日に食べ尽くすらしい。それを真似してみたのだけど、そう言えば今年は産まれて初めて、正月におせち料理を食べなかった。
 だからこれは本当に、ただの空しい真似事だ。
 ――お正月におせち料理を食べるのは当たり前。
 そんな事は僕の生まれるずっと前から勝手に決まっていた。いや、むしろ規定されていた、とさえ言ってしまっていいかも知れない。最近ではおせち料理を食べない人も多いと聞くけれど、他人の家の台所事情の本当など、その家庭に属する人間にしか知り得ないものだ。実態など逐一調べて回る価値もなく、到底労力を割けるものではない。そういうもの、なのだ。
 ただ我が家に関してのみ言えば、毎年おせち料理を食べていた。そして僕はおせち料理があまり得意ではなかった。ご馳走とは言うけれど、昔ながらの、甘いにしろ辛いにしろどこか鈍色めいた味は、子供の舌にはどうにも刺激が足りなかった。でもそのどれもこれもに込められた意味があるのよと、料理上手だった母は優しく僕に語り聞かせた。
 ――数の子は子孫繁栄を願って。
 ――伊達巻は教養を。
 ――搗ち栗(栗金団)は金と勝利を。
 ――鰤は出世を。
 ――海老は長寿を。
 ――etc.
 どれも素晴らしく慎ましやかな、人間らしいささやかな願い事。
 でもね、母さん。最後まで言えなかったけれど、僕にはどれも解らないんだよ。
 偉くもなりたくないし、金が勝利だとは思わない。こんな世の中で長生きして何になるの? 教養なんて中途半端にあったって、要らない悩み事を抱えるだけ。何より、僕みたいなクズの子供なんて考えるだけでもおぞましい……。
 ステレオタイプの幸せから離れてしまった人間は、どうやって生きていけばいいのだろう? そんな事を今更誰かに聞ける筈もなく、両親は最後まで僕がまともな人間であると期待したまま死んでしまった。
 理解者ではなかったけれど、それでも全くの愛着がなかったと言えば嘘になる。この心の底からようやく湧き出てきた人間らしい『悼む気持ち』というやつを、あの葬式業者と坊主を儲けさせるルーチンワークと百何通の喪中葉書だけで表せるものなのだろうか?
 普通はそんな事、考えもしないのだろう。
 人間の誰も居なくなった、僕の家。白い骨壺からなけなしの骨を一つずつ箸で摘まんで、鍋で温めておいた出汁の中にそっと落とし込んだ。しばらくはぷかぷかと水面に浮かんでいたが、その内に底へと沈んでいった。
 ――僕も最初はこうやって、頑張って真似をしてみようと思ったんだ。でも、食べてもいない鰤の骨を、鍋に入れられる筈がない。


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