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若早称平さん

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4・7

18/03/05 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:1件 若早称平 閲覧数:394

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 一ヶ月前から決まっていた決行日に奈那はベッドの中でうずくまっていた。すぐに電話がかかってきて、インフルエンザだと言い訳したが、すぐに仮病だとバレてしまった。

「どうして来なかったの? みんな集まってたんだよ」
 その日の夜、学校の近くにある公園に呼び出された奈那はクラスメイト全員に囲まれて子犬のように震えていた。
「ごめんなさい、急に怖くなって……」
 うつむき、風に乱れた前髪を直すように触りながら奈那が答えると、周囲から深い溜め息が聞こえた。奈那の親友であり学級委員長の美愉が彼女の肩を抱いた。
「今日はもう遅いし、こんな人数が集まっていたら目立つから解散にしましょう。計画の修正は日時も含めてまた連絡します」
 今日はお疲れさまでした、と美愉が頭を下げると計画の中心である数名を残してぞろぞろと公園を出て行く。そのはつらつとした様子は実に高校生らしくて、まるで今日担任の教師を殺害しようとしていた集団には見えない。奈那にはむしろそれが恐ろしく思えた。
「今日がベストだったんだけどなぁ」
 他の生徒達の姿が見えなくなるまで見送ったあと、地べたに座り込んだ男子生徒が残念そうに言った。
「仕方ないでしょ。でもまだチャンスがないわけじゃないわ」
 美愉がスマホでなにかを調べながら言った。もうやめよう。その一言を奈那は言い出せず、冷たい風に耐えるようにマフラーを巻き直した。四月になったばかりで夜はまだ寒く、道路の隅にはまだ黒くなった雪が残っている。小刻みに震える奈那に構わず殺害計画の練り直しは続けられた。

 どうしてこうなったのだろう? 授業中でも見せないような真剣な顔で淡々と殺害計画について話し合うクラスメイト達を見ながら、奈那は自問する。
 ある日の休み時間、吐き捨てるように「ホントあいつ殺したい」と奈那が呟いた。それはクラス中に波紋のように広がり、やがて大きなうねりになるのに時間はかからなかった。始めは奈那も面白がって話し合いに参加したり、アイディアを出したりしていた。
 気が付いたのは一ヶ月くらい前、決行日の候補を挙げている時だった。カレンダーと担任の行動パターンを照らし合わせていて、ふと奈那が顔を上げ周りを見ると誰も楽しそうにしていなかった。眉間にしわを寄せる美愉達を見て「あ、これ本当にやるんだ」と思わず声に出した奈那に周囲の目が一斉に向けられた。
「いまさらなに言ってるの?」
「やるに決まってるだろ?」
「もう。冗談やめてよ奈那」
「みんな奈那のためにやってるんだよ?」
「そもそも奈那が言い出したんじゃない」
「奈那の復讐のためじゃない」
 奈那は「そうだよね、ごめんごめん」と笑って誤摩化しながら足が震えていた。前髪を直しながら、どうすればこれを中止させられるのだろうかと、そればかりを考えていた。

 時計はもう二十三時を指していた。美愉達は公園のブランコの柵に座り、話し合いはまだ続いている。奈那はポケットの中の両手をぎゅっと握りしめた。それで体の震えが止まることはなかったが、ほんの少しの勇気は振り絞れたのではないかと思う。
「あのさ!」
 美愉達が一斉に奈那の方を向いた。
「わたし、やっぱりやらない。だってこんなのおかしいよ。本当に殺すことないじゃない」
 誰も笑っていなかった。奈那を非難するような視線もなかった。駄々をこねる子供をあやすような慈愛に満ちた表情が奈那に向けられた。
「ここまで準備したのに?」
 奈那はうなずく。
「みんな奈那のためにやってきたのに?」
 奈那はうなずく。
「あの担任をこのままにしていていいの?」
 奈那はうなずく。「少なくともわたしはもう参加しない」
「そっか、そこまで言うなら仕方ないわね」
 美愉が柵からぴょんと飛び降りた。心底残念そうな顔で奈那を見る。
「それじゃあ私たちだけでやりましょう。奈那の役割はそうね……私がやるわ」
 分かってもらえた、と久しぶりに明るくなった奈那の表情は一瞬のうちに曇った。
「決行日は三日後、四月七日よ」
 もう誰も、奈那の方を見向きもしない。彼らにとってまるで空気のような存在となった奈那はゆっくりと後ずさりする。
「ちょうどいいな、4・7って『For Nana』とも読めるじゃん」
「まさに奈那のためね」
「これ運命なんじゃない?」
 日付の語呂合わせに盛り上がるクラスメイト達に背を向けて、奈那は夜の町を走り出した。息を切らし、「そんなの私のためなんかじゃない」と呟きながら。警察に相談するために交番に駆け込もうとして逡巡する。警察は信じてくれるだろうか? 前髪を触る癖を注意された自分のために、クラスメイト全員が担任を殺そうとしているなんてことを。
 それでもやらなきゃ、と奈那は深呼吸をして交番のドアを思い切り開けた。


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このストーリーに関するコメント

18/03/06 文月めぐ

拝読いたしました。
やろうと思っていても決行日を目の前にすると急にできなくなってしまうこと、ありますよね。それが殺害計画ならなおさら怖くなって、震える主人公がかわいそうなほどでした。
交番に行くと決意して、今度こそ実行できるといいですね。

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