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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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笑わない少女

18/03/04 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:2件 むねすけ 閲覧数:221

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 病室の少女がテレビジョンに映し出される。
 エイとオウの二人は安酒場でピーナッツを砕きながら安酒を注ぎ合っていた。
「やれやれ、いつになったら」
「男酌の不味い酒から解放されますか」
「ね」
「ね」
 エイとオウ、二人を知るものは彼らをコンビとしてブルーと呼んだが、二人は、
「そのエイじゃない」
「そのオウじゃない」
 と、呼ばれるを好まない。
「どっちかっていうとだけどさ、俺が二人で」
「俺が一人」
「エイがふたつで、エイエイ」
「オウが一個でオウ」
「エイエイオウって呼ぶんなら呼んでもらいてぇな」
「いやー、そもそもコンビってのが気に入らないな、卵の殻ぶら下げてる子供っこじゃねんだ」
「まぁな」
 エイとオウ。コンビじゃないなんて言いながら、二人で一個のセリフを分け合うように彼らは話す。互いに背中を預け合っても倒れないように体重も揃えてるらしいというのは、噂ではない事実。
 テレビジョンでは病室の少女にかけられた褒賞金のゼロの列がピアノの単音と一緒に不埒なダンスを踊っていた。それぞれのテーブルで膨らんでいた気炎がひとつになって弾ける。安酒の泡よりも盛大な飛沫を伴って。
「ヒョー、すっげぇ額だな。一生も二生も遊んで暮らせら」
「笑わない少女か、今や世界一の有名人らしいじゃないか。スポンサーがこぞって懸賞に参加してやがるんだ。いけすかねぇ」
「ホントなのかね」
「どうだろうな。退屈な世界の賑やかしじゃないか」
 酔っ払いの軽妙な瞬間的内臓の裏っ返しが酒場を跳弾となって往来するも、酔客は酔いとジュークボックスから流れる音楽のおかげで見事にかわしている。
「言葉は弾にできても」
「目の玉はホントを撃ち抜けねぇんじゃ」
「ちょっと大麦と」
「ホップを控える方がいいんじゃねぇかな」
 エイとオウの二人はテレビジョンの中の少女を射抜くように見つめていた。少女にテレビ記者が一張羅の笑顔でインタビューを始める。
「どうです、これまであなたを笑わせるために世界からたくさんの芸達者たちがやって来ましたが、面白くないのですか? それとも。笑顔が作れないだけで心では笑っていますか?」
「いえあの、皆さん、私のために一生懸命で、その、嬉しいんです。私、でも、ごめんなさい。うふふ」
「あなたを笑わせることに成功すると、なんと三億の褒賞金が送られるんですよ、凄い額ですね」
「あの、それは、私には、なんと言ったらいいのか。よくわかりません、あはは」
 笑わない少女がテレビジョンの中で笑えていない笑い声を語尾に足す度に、酒場に心を落っことした酔いどれがギャハハと下品な笑いを被せる。
 オウが席を立とうとするのを、エイが押さえつける。
「笑えない時にも、笑おうとすることを諦めたくねぇんだ」
「まずは形からだな、あってるよ嬢ちゃん」
「行くか」
「行こうか」
 エイとオウはテーブルに脱いでいた上着をそれぞれに引っ掴むと、酒場を出る。バラバラに支払う金額の合計がその夜の払いにずれたことは一度もなかった。
 笑わない少女の病室へ、エイの運転するキャデラックが夜に赤い線を引っ張る。
「しかし、不思議な話だよな。手術に成功して」
「笑うことを失ったなんてな、笑いたくて」
「語尾にあははと言ってみても、顔はまっさらなんてな」
「なんであの顔を見て、連中は笑えたんだ?」
「だからかもしれねぇな」
「なるほどな、そいつはちょっとわかる気がするな、でもよ」
「あぁ、嬢ちゃん一人に背負わせるにはアンバランスだよな」 
「笑わせられるかな? お前面白いことできるか? 俺はたぶん」
「俺のすることで笑ったことがないって? ヒマワリフェスの夜を忘れたのか?」
「忘れたね。しかし、随分ぶりに笑うってのは」
「照れくさいもんだろうな。見ないでやろうぜ」
「あぁ、しかし、それだと、褒賞金は、もらえないかもな」
「踊るのは猿どもに任せておかないか?」
「金は生活が潤うのになー」
「汚いこと言ってないで、考えろよ。何か芸を」
「そんな、これまでに全国から芸自慢が集まってるんだぜ」
「あぁ、あのピエロは笑えたよな」
「俺は自称世界一のおっちょこちょいが話した失敗談で爆笑しちまったぜ」
「あぁ、笑えるってのは」
「いいもんだよ」
「見ないでやろうぜ」
「見ないでやろう」
 病室へと続く列の順番待ちが終わり、二人が中へ招かれる。
 ドタバタと二人は病室内のカメラと記者を外へ追いだした。
「おい、カメラ! おい、カメラで収めないと、褒賞金は!」
「始めよう」
 目を閉じた二人。
 少女のまっさらがピクリと動く。
 オウの握ったリボルバー。エイの咥えたシケモク。引かれるトリガー。銃口から、
「つめてー!」
 瞬間、笑わない少女の笑い声が、病室に響いて、二人も目を閉じたまま笑った。 


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このストーリーに関するコメント

18/03/16 haru@ソラ

久しぶりに読ませて頂きました。不思議な世界観で引き込まれました。

18/03/16 むねすけ

haruさん
日常のここを下敷きにどこかの世界を想像して書いています
読んでくださる人をその世界に招き入れることができたなら、嬉しいです
コメントありがとうございました

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