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ファリスさん

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教師あり学習

18/03/04 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 ファリス 閲覧数:153

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朝だ。
カーテンを開けると綺麗な青空が広がっていた。日光を全身に浴びながら伸びをすると、視野の真ん中、手を伸ばせば届きそうな空間の一部に、ドーナツのような赤いマルが現れた。すると、なんとなく気持ちが良くなったけれど、僕はそれを無視した。いつものことだ。
顔を洗い、パンを食べた。その後冷たい牛乳を飲んだら、今度は青いバツが現れた。その瞬間、僕は少し気分が悪くなった。しかしそれもいつものことだから無視した。
今日は仕事が休みだから家でのんびりしよう。そう心に決めて自室に戻ると、部屋中に青いバツが浮かんでいた。それを見た瞬間に目眩がした。いつものことではあるけれど。
部屋を片付けるうちにそれらの青いバツは次第に減ってゆき、きれいに整理整頓し終わった頃にはすっかり消えていた。
このマルやらバツやらが勝手に人様の家に上がり込むようになったのはいつ頃だっただろうか。それを思い出そうとすると頭の中のイメージがぼやけてしまい、気づけば目の前に大きな青いバツがあり、決まって頭痛に悩まされるのだ。
綺麗になった部屋で、僕はすることがなくなってしまった。本でも読もうかと思っていたはずなのに、いつの間にかその気が失せていた。そしてしっかり整頓されているはずの本棚を覆うように、一際大きな青いバツが張り付いているのだった。
諦めて散歩に出かけることにした。
玄関を出て後ろを振り向くと、思った通り、ドアに大きな赤いマルがへばりついていた。

まだ冬の寒さが残る中、犬の散歩をする老人やジョギングをしている夫婦など、人々の元気な姿が目に付いた。この寒さでよくやるなと思ってあたりを見渡すと、とても寒そうにしている人もいた。しかしその人はなんとなく目立たず、注意を向けるまで気づかなかった。
しばらく歩いて公園につくと、木々が冬と変わらない姿で風に揺られていた。つぼみが付いているものは少ないけれど、それを見つけるのは難しくなかった。
近くの自販機であたたかいお茶を買おうとした時、指先に小さな赤いマルが現れた。寒いからだろう。
雲はのんびりと動いている。乾いた枝がカサカサと音を立て、冷たい風が指先を冷やす。それでも気にせずベンチにもたれかかっていると、指先に小さな青いバツがいくつも現れた。今日はなんだかバツが多いなと思った。おかげで少し気分が暗くなった。鶏が先か卵が先かはわからないけれど。
「君、私の顔が見える?」
突然声をかけられた。
声の主は女性のはずだが、大小無数の青いバツに囲まれてよく見えない。
理由はわからないけれど、何か巨大な不安を感じた。
「……バツだらけで見えません」
「そう、あなたもそうなのね」
その人は納得した様子でそう言った。
「君、このバツとかマルが何なのか、知ってる?」
「さあ、考えたこともありません」
「そう……」
その人は何やら深刻そうな声音だった。
考えたことがないというのは嘘だ。考えようとしたことは何度だってある。けれどそのたびに頭が靄に包まれて思考が不明瞭になるのだ。いつからか僕はそれを考えるのをやめた。そうしたら頭がとてもすっきりした。
嘘をつく必要はなかったはずなのに、本当のことを言ってはいけない気がした。
「考えることは自由で、考える力は大きな翼。あなたは大空を知るべきだわ」
「何のことかわかりませんが」
僕はまた嘘をついた。
そう言うと、その人はずいっと近づいてきた。青いバツが僕の身体の一部を覆うようになり、急に頭が痛くなった。
「その鎖を解いてあげる」
その人は手を僕の額に軽く当てて何かを呟いたけれど、何と言ったかははっきりとしなかった。

いや、聞こうとしていなかったのだ。

感覚が急に鮮明になり、頭痛もすっかりなくなった。
僕の中の何かが確信に変わるのがわかった。
ぼんやりとしていた自我が痛いほど鋭く認識できるようになった。
「本当の青空は、こんなに広くて美しいのよ?」
気付くと若い女性が嬉しそうにこちらを見ていた。
バツだらけの人と同じ声だ。
「なんだか軽くなった気がします」
「思いきり舞いなさい。鍵は外れたわ」
じゃあね、と彼女は去ってしまった。
家に帰るとドアにへばりついていた赤いマルは消え、いつもなら部屋のあちこちに現れる青いバツもなかった。
毛布が乱れるのも気にせずベッドに倒れこんだ。わざと焦点を外しながら、彼女の言葉をゆっくりと反芻した。

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