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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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宝石を食べる悪魔と契約した話

18/03/04 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:1件 小高まあな 閲覧数:776

時空モノガタリからの選評

まとまりが良く、読みやすかったです。しかしそれだけではなく、都合の良い弁解で状況を有利にしようとする「彼」と後輩の、言葉と反応の一つ一つがリアルで、作品に説得力をもたらしていると思います。その状況を冷静に見つめる主人公も魅力的に感じました。突然の裏切りに対し呆れつつ、「あの二人が不幸になっても、私は幸せになれない」と現実的に対処し、幸運を手に入れてしまうところは読んでいて爽快です。「悪魔」はそんな彼女の中にさえも潜む邪悪なものの表象なのではないか、という気がしました。だれでも二面性を持ち合わせているわけで、彼女自身にもやはり葛藤はあったということかもしれません。だとするとその後の彼女の幸せは、棚ぼた式にもたらされたものではなく、無自覚にせよ、”悪魔の誘い”に屈しなかった彼女の生き方が引き寄せたものなのではないでしょうか。ということは彼女の「これで終わりにしたい」という思いとは裏腹に、二人はずっと一緒に対話を続けていくことになるのかもしれませんね。それはそれでまた楽しそうで、読んでみたい気がします。

時空モノガタリK

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 結婚式まであと二週間だった。招待状も出したし、ドレスも料理も何もかも全部決まっていた。
 なのに、あの男は、
「ごめん! 彼女のことが好きになったんだ!」
 後輩に手を出していた。
「先輩っ、ごめんなさい」
 わざとらしく、後輩が泣いている。
「すまない、彼女は悪くないんだ。俺がっ」
 全員が同じ職場だ。私が結婚することを後輩も知っていた。迫ったのが彼からだったとしても、女が悪くないわけがない。
「彼女のお腹の中には、子供がいるんだ」
 しかも避妊に手を抜いてたのか。
「ごめんなさい、本当にっ。でも、この子のことは祝福してあげてください」
 後輩がお腹を撫でながら言う。
「このままじゃ、俺も彼女も会社にいづらくなってしまう。だから」
「私が原因で結婚をやめたとこにして、会社辞めろってこと?」
 まさかと思ってたずねると、
「すまない」
 彼が頭を下げた。
「生まれてくる子供のためにも、俺たちが職を失うわけにはいかないんだ」
 ああ、私はこんな男に惚れていたのか。馬鹿馬鹿しい。
「酷いこと言ってるっていう自覚はある?」
 一応聞いてみると、彼は顔を歪め、後輩は、
「だって、仕方ないじゃないですかっ」
 ヒステリックにわめいた。
 いやいや、わめける立場かよ。
「赤ちゃんがいるんですよ! ここにっ! 妊娠してない先輩にはわかんないですよねっ!」
「ちょっと、落ち着いて」
 彼が後輩をなだめる。
 後輩が地雷女なのは知っていた。いい歳して「女の人より、男の人の方が話しやすいんですぅー」とか平気で女が、まっとうなわけがない。男性上司はたまに釘を刺してくれていたけど、この男はまんまと引っかかったらしい。あほか。
「この話が、今ここでわかった、と答えられるものじゃないことは、わかるわよね?」
「でも」
「わかってる」
 何か反論しようとした後輩を抑えて、彼が言った。
「幸い今日は金曜日だし……土日で答えをだして、週明けに連絡する。どうせ、月曜にならないと上司にも報告できないでしょ。式場のキャンセルはあなたの方からしておいて。それぐらい、やってくれるわよね? キャンセル費用、私は出さないわよ? 式場にまで嘘をつく理由がないもの」
「だけど、子供が生まれるからお金が」
 後輩が唇をとがらせながら言う。神経図太くて羨ましい。
「わかった」
 彼は頷いた。
 アホな男と女と、自分のコーヒー代を残して私はファミレスから出た。

 その夜、私は悪魔と出会った。
 手のひらサイズの黒いコウモリの羽が生えた、猿みたいな生き物がベランダから入ってきたのだ。
「お前の負のオーラに惹かれた。俺と契約しないか?」
「契約?」
「あの二人を不幸にしてやろう」
「それはいいや」
 あの二人が不幸になっても、私は幸せになれない。
「もしも願いが叶えられるのなら、私を幸福にして。あの二人が羨むような」
 悪魔は、一瞬「えー、それつまんないー」みたいな顔をしたが、
「わかった。報酬は宝石だ」
「宝石?」
「俺はそれを食べて生きている」
「わかった」
 婚約指輪でもあげよう。張り切った彼が大きなダイヤをつけた指輪。
 そうして、私は悪魔と契約したのだ。

 契約の成果を簡単に報告しよう。
 次の日の昼には、業界最大手の会社から突然引き抜きの電話があった。びっくりした。しがない私が引き抜かれるとは。給料は倍近かった。すぐにオッケーした。
 彼と後輩の話を飲んで、会社に詫びを入れた。ご迷惑をおかけしました、と。
 後輩は妊娠四ヶ月なのだ。彼と結婚したとして逆算したら被っていたのがすぐにバレる。というか、社内でいちゃいちゃしだしたから、すでに噂になっているし。ボロが出るのも時間の問題。私の嘘もみんな、うっすら察している。
 転職はうまくいき、新しい会社で彼よりもイケメンで高収入で優しい人と付き合いだし、私の人生は楽しく回っている。
 あの二人がどうしたのかは、もうあまり興味がない。

 ただ一点、問題が残っている。
 あの後、婚約指輪を差し出したら、 
「こんなものいらん。食べるのだから、食べ物に決まっているだろ?」
「はぁ?」
「知らんのか、食べられる宝石。最近流行ってるのに」
「あ、もしかして琥珀糖?」
「血よりも鮮やかな赤で、深い青色をが混ざり合う。ちょっと緑も混じっている。そんな宝石が食べたい」
 市販品を探したが、そんなものはなかった。
 仕方なく、せっせと琥珀糖を作っている。しかし、なかなか悪魔のお眼鏡にかなわない。
「違う。こんなんじゃない。もっと鮮やかな赤にしろ」
 やっていることは平和だが、悪魔は私の家に居ついたままだ。納得する琥珀糖を完成させるまで、今の恋人を家に呼ぶこともできない。
 私は今日も帰りにスーパーで寒天を買う。これで終わりにしたいと思いながら。


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このストーリーに関するコメント

18/04/11 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
婚約者と後輩に憤りと呆れを感じつつも、その人物造形にリアリティを覚えました。
「悪魔との契約だから、幸せと引き換えに怖い結末が待っているんじゃ……」と身構えていましたが、どこかほのぼのとしたオチに苦笑しつつ脱力。読後感が良かったです。
楽しませていただきました。

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