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桐生 舞都さん

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最強の剣

18/03/03 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 桐生 舞都 閲覧数:154

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帝国にはあるとき、一人の素直な若者がいた。彼は剣の腕に非常に優れた剣士だった。帝国の闘技場では今、王子の主催する一大大会が開かれていた。今回は一戦あたりの賞金といい、参加者数といい、何から何まで特別だった。王子が直々に開催する、帝国はじまって以来最大の大会だからだ。
ここは弱肉強食の闘技場。優勝すれば報酬として富が得られる。
若者は一大稼ぎ頭にして、今や帝国のスターだった。
彼が求めていたのは今回の優勝報酬である、持つ者を最強にしてくれると言われる剣だった。王子から直々にお触れが出され、帝国じゅうで喧伝されたそれは、なんでも、王子の家に代々伝わる伝説の家宝らしい。
あのお金持ちの王子が言うのなら、それはそれはものすごい逸品に間違いない。
もしかしたら、その剣を手に入れれば自分も最強の剣士になれるかも……。
そう考えるようになった若者は、夜も眠れないほどに剣が欲しくなり、大会を制するため、より一層の修練に励んだ。
    
来たる大会当日、若者はあっという間に勝ち上がり、最後の決闘を制して優勝した。いつもなら苦戦するはずの相手にも、自分の一撃がすべて吸い込まれるように通ったのだ。
優勝した若者に、多くの観衆たちが見守る中、王子より剣が手渡される。
ああ、夢にまで見た最強の剣!
王子がうっとりする若者を見て不思議そうに言う。
「どうした? 早く剣を取って、振ってみろ」
若者は王子にうながされるまま、恍惚の表情で剣を取った。
すると。
――ベキリ。
乾いた音がして、若者は非常に驚いた。恐る恐る剣を見る。
――折れている。
気づくまもなく、観客席から、どっと大笑いが起こった。
「あっはっはっは!」
王子までもが、腹を抱えておかしそうに笑っているではないか!
最強の剣と言うのは、嘘だったのか!
実はこの大会は、王子によって仕組まれた悪趣味な余興だった。
今回の若者の対戦相手はみな、王子の指示で手を抜いていた。
王子はかつて、名剣士として知られた若者と手合わせしてみたいとわがままを言って、軽装で模擬戦をしたことがあった。
その際、非常に素直な若者は気を使うことなど思いもよらず、彼のいつもの力で王子に一撃を叩き込んだ。
全ては若者よりも上の地位にありながら、あばらを打って地面にのたうちまわるという屈辱を味わった王子による、若者への仕返しだったのだ。
最強の剣の存在を信じていたのは滑稽な自分ただひとりだけだった。
大恥をかかされた若者は折れた剣を投げ捨ててその場を去った。その後、若者が闘技場に現れることは二度と無かった。

それから三か月後、王子は国じゅうに自分の名をとどろかせるために、他の地方まで遠征におもむいた。だが、そのさなかに鉄砲にあたり、あっさり死んでしまった。
後継者の決まっていなかった実力主義の組織は混乱を極め、それとほぼ時を同じくして、戦乱の世が訪れた。

時と場所は変わって十数年後、ある男が妻に自らの苦労話を語り聞かせていた。彼は補給隊の一人として、血みどろの戦を生き延びた者だ。男は昔を回想するように言った。
「かつて闘技場で優勝したとき、報酬として剣を渡されたことがあった」
「それで?」
「その剣は、『最強の剣』と呼ばれるものだった。喉から手が出るほど最強の座が欲しかった私は勝ち上がり、剣を手に取った。我ながらバカだったと思うよ。とにかくだ、そんな剣を実際に一振りした後、どうなったと思うか」
「さあ」
「剣はすぐに折れて使い物にならなくなったさ。私が騙されていただけだった」
男は自虐するように笑った。
「それ以来、何か困難があればいつもこの時のことを思いだし、自分を奮起させてきた。仲間の死、飢餓、そして大敗――。今思えば、あれにも意味があったのかもしれないな」
「なるほど」
「だがこれからは、悔しさをバネにするだけではいかん。もっと確かな実力が必要となるだろう。どうかお前にも協力してほしい。聡明な我が妻よ」
黙って彼の話を聞いていた彼女は、おもむろに小さな声で呟いた。
「――しかし、げんにこうして叶ったではないですか」
「何か言ったか?」
「いいえ、別に」
妻は最強の座を手に入れたばかりの彼を見て、ふふ、と笑みをこぼした。

帝国学院高校剣道部出身で、その後、国体を何度も制した故東堂選手とその妻への初優勝記念のインタビュー記録はここで終わっている。

そんな帝国の剣道部だが、のちに賞品賞金を賭けた私的な大会が部員間で行われていたことが発覚し、大問題となった。
「我が校の昔からの伝統だ」というのが賭け大会を行っていた部員たちの主張だ。
ちなみに戦前に活躍し、東堂選手の一個上の先輩だった七代目主将、王子 岳史(おうじ たかふみ)の死因は、部の九州遠征の際に料亭で食べたフグに当たったことである。
フグはその別名を鉄砲という。


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